「Art's Report site/ZAKKAYA PARIS

戸田昭子「雑歌屋パリ」

vol.16

雑歌屋

ご無沙汰いたしております。雑歌屋のフランス音楽だよりです。

寒い季節になりますが、今回は、8月に参加したフランスでの講習会のご報告をいたします。

フランスのまんなかあたりのクルーズの田舎の町で一週間の「歌曲の講習会」歌い手とピアニストへの講習会ですが、声楽の先生は不在で、伴奏ピアニストと、アレクサンダー・テクニックの先生が指導者です。歌い手が7人、ピアニストが4人集まりました。私と連れ合いはペアで参加です。

“paysage sonore”というのが講習会のテーマ。「音楽の風景」とでも訳しましょうか。

Paysage=景色、風景はこの地方の売り物だとか。この講習会は地元の「夏のフェスティヴァル」に組み込まれていたのです。(現地に行ってからわかるのがフランスっぽいというか)

昨年11月に訪れたジョルジュサンドの館のあるノオン(Nohan)も、同じベリー地方にあります。美しい景色のため、文学にもよく描かれているそうです。元水車小屋を買い取って作ったという宿泊施設は、内部はモダンなものの、すぐ裏には川が流れ、川べりを散歩できます。釣りをしているおじさんたち、エサを食べている鴨たち。よく見たら宿泊施設の目の前にカフェはあるし、1キロも歩かないところにスーパーもあるのですが、施設内に閉じこもっている限りは、なかなか別世界でした。いつも行く田舎もいいけれど、川がみじかにあるのはいいものだなあ、と思いました。

パリでほとんどの参加者が一緒に列車に乗り,到着して一時間もしないうちに講習会開始。全員が演奏という形で自己紹介、夕食後は指導ピアニストの伴奏する一流歌手のコンサートにご招待、とあわただしく始まりました。翌日の午前にやっとレッスンと思ったら、午後はまた、フェスティバルの一環の「自然めぐり」に参加。「せっかくだから」とでかけたら、実際にはちょっとした山歩き。久しぶりの夏らしい天気で、日の高い午後には段差のある土の道はきついものでした。

景色は本当に美しいもの。子供のころに登った上高地を思い出しました。険しいがけには、子羊たち。村を抜け、川沿いに歩き、畑を囲む小さな木立などをまわり、野生の実を気分転換にいただきました。(実は相当疲れていたんです)ひとなつっこい子猫もいるところは・・・ああ、パリとは別世界。「遊びに来るのはいいけれど、夜出歩けないから暮らすのは無理だなあ」という声も聞こえます。「私は夜は家にいてもいいんだけど、仕事がパリではなんともしようがないなあ」などと、つまらないことを考えながらふらふら歩きました。

到着地では無料コンサート。今年3回目という当地のフェスティバル。農業が中心であるかもしれない田舎の村。コンサートにもスペクタクルにもでかけたことがねえべ、という感じの人々が集まってくるとか。私はかなり疲れており、レッスンもすすまないので、ちょっといらいら。そしてトイレにも行きたい!フェスティヴァルも大切だけど、飲み水と清潔なトイレくらいは確保していただきたいとおもったこってした。

講習会のテーマ「風景」にひたるこんな平和な滑り出しも悪くないといえば…悪くはない。(でもしんどかった。週の途中にしてくれればいいのに)でも生徒であるには体力が必要です。

さて、景色をテーマとして、どんな歌をうたえばよいのか?指導者であるピアニストに出会い、準備はパリでの選曲から始まりました。

歌曲にはよく景色が出てくるものです。深く考えずに持っていった曲からピアニストの連想は広がり、我われのテーマも絞り込まれました。

日本の大学だと「誰それ作曲の歌曲の歌い方」という特別授業もありますが、今回は時代や作曲者にこだわらない、「内容」重視です。

午前中は全員が全員の前で演奏する公開レッスンです。一グループ20分の間に、二人の講師が、歌い手とピアニストという「関係性」に触れていきます。音楽面からも、音楽家としても。二人は同等、歌曲は室内楽なのです。譜面の始まる「前」に、ピアニストは何を聴くか。一方が演奏に満足しなくても、とまらないこと。自分ひとりがとまると、ふたりの演奏が一挙にストップしてしまいます。あくまでも、「相手がいることを忘れずに」と・・・

合間に、アレクサンダー・テクニックの先生が、気がついたときに立ち上がります。外面は、肩や背中に手をおいて単に姿勢をなおしているように見えます。

私個人としては、日頃の先生ヅラが湧き上がってくるのを感じます。最初の日から、この人はここをなおせばもっとよい、この人の欠点はこれだ、などと箇条書きにしてしまうのです。けれども、ここはアレクサンダー・テクニックのレッスンでもあるのだから、ぐっとこらえました。話せば長くなりますが「しないこと」はアレクサンダー・テクニックのひとつの要素です。そうして、“声楽家ではない“二人の講師が、どんなふうに皆を動かしていくのか、見守ることにしました。

アレクサンダー・テクニックは、背中をよい位置におさめて?そこから世界へ向かっていこう・・・という感じ。“be”「存在」ということに語りかけていくレッスンです。朝はまず体操というか、からだの準備。歌の講習会は普通「声を温める」発声をやるものですが、体を温めるのです。立っていることだけにも時間をかけ、じっくりと味わいます。お天気の良い日は外でやっていたので、ご近所さんが不思議そうにのぞいています。セクトではないんですが、誤解されてるかも。おかげさまで、最終コンサートには興味をもったご近所さんが集まってくださったようですが。

私はこの先生のレッスンをある程度うけており、今回個人的に受け取ったものは「話せば長くなること」でした。私が行きたい方向は何となく見えています。普段、1週間から1か月以上も間のあくこともある個人レッスンが、講習会では1週間の間に3回。30分と短い時間ではあるものの濃厚です。体の中心を整えるには、まずは「不要なものを放す」こと。放しても放しても、またつかんでしまったり、信じられない大昔からつかんでいるのを気がつかないものもあります。「つかんでいるもの」は心身にあります。癖として出る場合もあり、それが体にとって楽ではないタイプだと、実際あとでからだの故障がでてきたりします。関節リウマチの私にはぴったりあった感じです。「気がつく」のも大事な要素。

「話せば長い」のは、この過去15年、フランス滞在の15年を、まざまざと、というか、やっと、というべきか、感じてしまったからでもあります。今回「フランス歌曲の“存在”」が、それに気づかせてくれたのです。「今」「ここに」「いること」がほとんど奇跡のように思えました。

歌曲の勉強については、久しぶりの実践。施設にあったパソコンが使えて「インターネットも役に立つのだなあ」と思わされました。作曲家、詩人、歴史背景など、ある程度簡単に調べられるからです。子供も参加者のインターネットでの「さがしもの」をしたり、レッスンの進行表、練習室の予定表などを制作してくれました。(最後の方ではプリンターのインクがなくなったそうですが)

金曜の夜にはミニコンサート。講習会中に一度もレッスンに立ち会わなかった主催者が「マスタークラスなので、ストップすることもあるかも知れません」と挨拶。ピアニストが「コンサートというほどでもないけれど、ストップはしません」と優しく付け加え、会は始まりました。私は最後の方なので、実は他の人をきちんと聞いていたかどうか、あんまり自信がありません。

翌朝、最後のレッスンがわりに「自分自身はどうだったか」「相手との関係性について」「客席にいて自分はどうだったか」と質問されて、「そういえば、どうだっけ?」と考えなおしたくらいです。

けれども、確実に、講習会の初めに感じた「先生のワタシ」は小さくなっていてくれて、先入観少なく聞くことができました。毎日過ごして仲良くなり、仲間意識が出てくるからでもありますが、本当に、素直に聞けたのです。最初は完璧主義に聞こえた人も、この日は失敗をも自らに許して歌っている気がしました。

私たちのあとにもう一人若い歌手が歌い、そのあとは、実は息子の番でした。クラリネットで父親のピアノとジャズの演奏です。前夜に練習していたので心配はなし。そしてその後にもう一度我々の番。今度はレッスンを受けていないジャズ。すでに日本でも演奏した曲でした。そんなこともあって、客席の自分がどうだったのか、と問われると上記のこと以外には「いつもと一緒で普通」といったところだったのです。しかも子供のときには、ビデオ録りなんてしてたりして。自分の出番前に、ビデオ録ってる場合じゃあないと思うのですが・・・でも日本のリサイタルでは休憩時間に吐いてしまった子供のベビーシッターしていたし・・・なんだか普通です。

それにしてもピアニストの先生はすごい!と後でしみじみ思ったのです。というのは、息子の日々の生活を目にはしていたものの、そのクラリネットの演奏は聞いていません。なのに、みんなと一緒に演奏してね、と、前夜に言われたのだそうです。講習会参加者のレベルも傍目に見てまずまずだったし、フランスの大スタークラシック歌手の伴奏もするピアニストです。

うーん、太っ腹、すごすぎる。

私たちを信頼してくれたんだなあ。

と思ってしまったのは、やっぱり親ばかなんでしょうか。いや、ばか親なんでしょうか。

クラシック音楽の勉強にはなぜか厳しい面も付きまといますが、今回はピアニストも歌手も、お互いに、人間として接し、人間として互いを受け入れる、人と心にやさしい1週間でした。

戸田昭子

雑歌屋

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