「Art's Report site/ZAKKAYA PARIS

戸田昭子「雑歌屋パリ」

vol.14

2007年です。また、新しい年を迎えました。
いろんな人生を右に左にみながら、また生きさせてもらえることを
ありがたくかみしめています。

このクリスマス休暇は、久しぶりに風邪をひき、病人休暇でした。
日本と違って大掃除も気にしなくていいし、どっちにしても家にいないし、
クリスマスは親戚のところで過ごし、あとはのんびり・・・
バカンスには、田舎へよく行きます。毎度同じところを行ったりきたり、
同じ家からとる空の風景も、あきることがありません。

しかし、歌えない、という日々が続くと、なんとなく、じりじりしてくるものです。
声を出せない、ということは、腹にチカラが入らないのと同意義だ、
としみじみ感じました。
のどが痛かったり、咳が思いがけず出てきたりするせいもありますが、
それにしても、声を出したいという気持もない一方で、なんとなく、
ストレスを感じる。

「つらいときは歌おう」、とか、「悲しみも歌えば吹き飛ぶ」とはいいますが、
私にはもう使えない手です。
それでも、それが決して無意味でないことは、よくわかります。
「おなかから声を出す」のは大事なのです。

そして、声は、本当におなかから出るものなのです。

人間は、心臓が動くことによって生きていますが、
さらに、この心臓は、肺呼吸があるからこそ、そのエネルギーを補給しています。
呼吸は、肺が下がることでおきますが、
コレは肺が下がるわけではなく、横隔膜という薄い丈夫な筋肉が下がることにより、
肺が「引っ張られて」「下がる」からなのです。
つまり、「横隔膜」が一番大事なのです。

おなかに力がないと、横隔膜をとりまく、腹回りの筋肉にも力が入らない。
だから、声を出す気にもならない・・・これを実感しました。
(おとなしく、カラダの自然な声にしたがって、休養中。)
しかし、どこか、カラダが歌いたがっているのは感じます。

オペラの役にのっとってわめいたり、怒りを噴出したり、
死にたいと言ってみたり、大きな声で愛を叫んだり・・・
いろんな曲を知っていると、いろんなことを大声で語れます。
ふとこれは、合法的な麻薬ではないか・・・と思ったりして。

普通に話せば聞こえる以上の音量の声を出すということ事態、特殊なこと。
これだけでも、確かに気分もすっきり。
きっと、「おなかから声を出すせい」、それだけ、横隔膜を働かせるからでしょう。
(腹筋という意味ではありません)
体の内部が知らないうちに体操し、酸素の循環が普段より促され、
それだけでも気分がよくなるのです。
それに、口の中から出る音は、頭蓋骨を伝わっていきます。
普段存在しない振動が生まれ、伝わります。コレは自己内部マッサージみたいなものかしら。

知らない国の言葉でも、歌だったらできる。ありがたいことです。

今はショパンの歌曲を紐解いています。
ポーランド語の発音はなんとか、それらしくなりました。
あとは単語の理解を増やしていかねばなりません。少しずつ、
繰り返して進んでいきます。

ショパンの歌曲は多くはありませんし、爆発するようなものはほとんどありません。
しかし音楽は「とってもショパン」、何処を切ってもショパンです。
ただ、その詩の選択が、彼の考えていたことをちらりと連想させ、
日記をのぞき見ているような気分にさえなってしまいます。
ポーランド語でオペラをかけば?と誘われたのを断り、ひたすらピアノ曲を
書いた彼が、ひっそりと残した歌曲です。
訳をみながらポーランド人に説明してもらい、ますますほれ込んでしまいます。

数知れないピアノ曲、もう弾けなくなってしまいました。
ダイナミックに弾きたいショパン。もう少しうまく弾きたかった・・・
けれど、今度はピアニストがいっしょにいてくれます。
パリでのコンサートの予定、2月4日も近づいてしまいました。
タイトルを”Invitation to Neverland”としました。
ちょっと無理があったかもしれませんが、ジョニー・デップのネバーランドを見て思いついたのです。
(ネバーランドに住む”ピーターパン”の作者の物語です)
この映画に出てくる女性は、最後に、結核で(おそらく)息を引き取りますが、
彼女を迎えたのは「ネバーランド」であったはずです。
病床の彼女に、彼女の子供たちは、ピーターパンの舞台を贈ります。
明るいいろどりの中、彼女はたちあがり、妖精に手をとられてネバーランドへ旅たちます。

ショパンも結核でした。

現在、周りの人が亡くなれば涙する私も、過去の作曲家が死んでしまった、
と泣くことはありません。
ショパンは40前に亡くなりましたが、私たちに、素敵な作品を分けてくれました。
ショパンも、ネバーランドにいるのでしょう。

だから、invitation to Neverland なのです。

(日本へは4月19日にめぐろパーシモンホールで予定しています。)

今年もよろしくお願い申し上げます。

雑歌屋
戸田昭子