「Art's Report site/ZAKKAYA PARIS

戸田昭子「雑歌屋パリ」

vol.15

〜「雑歌屋」の名前はしばらく文章に多く使ってきましたが、久しぶりに日本公演のタイトルになります。〜

2月4日、パリで「ショパンの歌曲」を中心としたリサイタルを開きました。自分の(42歳の)誕生日お祝いです。年末のクリスマスよりタバコが引き金となり(?)風邪をひき、そのあとも鼻炎という形で長引き、ステロイド吸入をしながらのコンサート準備となりました。予定していた練習が全部後々になり、ピアニストをやきもきさせてしまったようですが、無事、暖かい拍手をいただいて、終了いたしました。ネットを通じて、パリ在住のお会いしたことのない日本人の方も聞きにいらして下さり、ますます目に見えないネットの不思議な力に惹かれているこの頃です。

さて、「ショパンの歌曲」なんて知らないなあ、聞いたことないなあ・・・とおっしゃる皆さん、私も、少し前までその存在を知りませんでした。ショパンが作品を多く残したのは、移住したフランスでです。彼の父親はもともとフランス人ですから、ショパンはいわばフランス人2世。でも、二十歳まで住んでいたポーランドは心の故郷だった模様です。お墓はパリにありますが、心臓だけ、ポーランドに眠っているそうです。オペラを書けと勧められても、モーツアルト、ロッシーニやベッリーニといった当時のオペラ鑑賞は好きでも、ショパンは多数の(ほとんど)ピアノ作品ばかりを残しています。


この企画のきっかけは、日本で見つけた一冊の本と、こちらの、二人のポーランド系三世の生徒たちです。ポーランド3世といっても、彼らはフランス出生まれた、れっきとしたフランス人なので、ポーランド語は外国語みたいなもののよう。ショパンの選んだ詩は、彼らにも結構難しいみたいですが、私も19世紀の日本語が、ちっともわかかりませんから、似たようなものかな?

さて、夏から、ポーランド語のアルファベットは読めるようにしていましたが、正しい発音、正しいイントネーション(抑揚)を聞きたいと思っていました。それに、辞書はあってもすべての言葉は見つけられず・・・詩的に作り直されすぎて、詩の各行に対応した直訳が見つからない作品は、本当に理解が進みません。思わず日本人のネットでポーランド人探しを呼びかけましたが、反応なし。それではと、音楽学校の同僚に聞いてみたら、いました!スペイン人ギターの先生→奥さん→友達のブラジル人の友達のポーランド人・・・ここは、さすがにパリ、人類の坩堝だ!と、痛感した次第です。この人は文学畑であり、パリ在住のポーランド系の子供にポーランド語を教えている、という、私にまさしくぴったりな人だったのです。

さて、初めての原語の詩の理解は簡単にはいきませんが、ポーランド語は冠詞がない言葉で、日本語みたいなところもあります。だから、気は楽なんです。ショパンはイタリアオペラ的「熱愛の歌!!」という詩は、殆ど選んでいません。私は、うたいたい歌曲は詩によって選ぶことが多いので、その点も、ショパンの作品はしっくりきたようです。

音楽的には短いものがほとんど。17歳で作曲したという作品も、すでに「ショパン色」です。同じ年代のロマン派の作曲家も多くいますが、どうしてどうして、ショパンは、こんなにもオリジナルで、他の作曲家のように「ナントカ派」とか、何処そこの「国の音楽家」となる必要もなく、「ショパンはショパン」なのです。これらの曲を、誰かに歌ってもらうつもりで書いたのか?親しかったメゾソプラノ歌手ポーリーヌ・ヴィアルドーの声を思って書いたのかどうかはよくわかりません。全体的には、たいてい低めです。(これも、キンキンしないのが好みの私にはよかったみたいです。)出版予定はなかったのことで、死後にまとめられて出版されています。

そういえば、学生で歌曲を勉強したときは、「言葉と音楽の重要な結びつき」ということを学びました。今回はあまり気にとめずにいましたが、少しずつ言葉がわかってくると、曲のアクセントどおりに詞を読めば、音楽にのせただけでそれなりに格好がつくようになっていて、ショパンはやはり天才であり、センスがとてつもなくよく、すばらしい芸術家である、とあらためて思いました。


歌曲は全部、ポーランド語です。パリで親交があったという詩人の作品に多く曲をつけてもいます。ポーランドは当時、周りの強国にとりかこまれ、そんな中から”逃げてきた”ショパン。ポーランドは心からはなれることのない故国だったのでしょう。すう曲は、リストがピアノ曲として編曲しているので「乙女の願い」など、題名だけはピアノ曲として知られているものも少なくありません。


また、ショパンのピアノ曲マズルカにフランス語をつけ、編曲された作品も2曲歌いました。この編曲は、ポーリーヌ・ヴィアルドーがしています。彼女は、名歌手として評判だったそうです。ジョルジュ・サンドともとても親しく交流があり、夏には、一緒に田舎で過ごしていたようです。彼女の父親は、当時の歌の名先生ガルシアといい、声楽のきめ細かなメトードを残しています。

ポーリーヌは、その時代のロッシーニなど、コロラトゥーラの要素の多い歌を見事に歌いこなしていたり、絵も描いたり、なかなかの才女振りを感じさせられます。彼女が編曲したマズルカには、「これ、ショパン!?どうしよう、歌おうか歌うまいか?」
と、譜読みの時点で驚きを覚える、そんな箇所がありました。ヴォカリーズが、まったくもって「19世紀イタリアのアリア」の世界なのです。しかし詩の内容と照らし合わせていけば、それらは原曲マズルカになくても、そのヴォカリーズはぴったりくるのです。というわけで、学生のとき、ベッリーニやロッシーニをたくさん勉強したのが、40を越えて、思いがけないところで活用できました。


2月4日のリサイタルでは、実はマイクの部と、アコースティックの積み重ねの4部構成でした。ショパンに加え、シャンソンと日本のフォーク弾き語り、ロック調のジャズスタンダードジャズまで入れたのです。好きに使える会場で、簡単に性能のよいマイクと、カエリのアンプを出してくれます。そんなことで、実現が可能でした。

弾き語りで「すれ違いの愛の歌」でスタート、続いてショパンの選んださまざまな種類の「別れに関する詩」を歌い、その寂しさを語りました。続いてショパンのピアノジャズ版からジャズスタンダード、タイトルにもある”Invitation”のショパン版、そして、最近、非常に心を打たれたシャンソンを入れました。そのあとは、寂しさから希望へ向け展開し、ショパンの元気のある歌曲に戻り、さりげなく愛を語った詩にいたります。

会場の都合で、日本では、同じプログラムはできません。マイクは気軽には使えないでしょう。(また、名古屋の会場は広すぎるところしか見つからなくて!名古屋って、200席以下の会場は皆無なのだ、とつくづく思い知らされました。)

東京ではピアニスト石渡瑞都さんによるピアノソロ、幻想ポロネーズOp.61やバッハの曲も入った、”クラシックな”クラシックコンサートとなります。名古屋では、連れ合いディミトリ・ドブラエルによるジャズ版のショパン即興と、地元の女優、白樺八青さんによる、詞の朗読も入ります。なじみの薄いポーランド語の曲ですが、彼女の柔らかな朗読によって、歌の世界の入り口を作っていきたいと思っています。

パリに「古楽」を学びに来た私が、やっと故郷で演奏するも、プログラムは、バロックでもフランスものではなくて「ショパン」です。ここに「雑歌屋」の名前の所以もあるというもの!好きな歌を歌っていきたいです。

コンサートについてのお問い合わせ・詳細は
雑歌屋http://zakkayamusique.hp.infoseek.co.jp/までどうぞ。
講習会につきましても、メールもお待ちしております。


[公演情報その1] 東京
2007年4月19日(木) 19:00開演
「パリ発、ポーランドの風! ショパンを歌う」
会場/めぐろパーシモン小ホール
出演/戸田昭子(ソプラノ)石渡瑞都(ピアノ)
曲目/ショパン:歌曲Op.74「乙女の願い」「二人の死」「メロディ」「枯葉は舞い落ちる」/ショパン:幻想ポロネーズOp.61 他
料金/\2,500
問/エスパス・ソノール 04-7133-5135 託児サービスあり

[公演情報その2] 名古屋
2007年4月17日(火) 19:00開演
「Invitation to Neverland ショパンを歌う」
会場/名古屋・中村文化小劇場
出演/戸田昭子(ソプラノ)石渡瑞都(ピアノ)
    ディミトリ・ドブラエル(ジャズピアノ)白樺八青(朗読)
曲目/ショパン:歌曲Op.74「乙女の願い」「二人の死」「メロディ」「枯葉は舞い落ちる」/ショパン:幻想ポロネーズOp.61/Prelude in Jazz 他
料金/前売\2,500 当日\2,800
問/スタジオウエイブ 0562-84-6956

〜雑歌屋講習会〜
4月13日(金)〜15日(日)には「フランス語の歌の作品を歌う」というテーマで講習会を予定しております。
名古屋で3回目の講習会です。

日本では、シャンソンは人気がありますが、できれば、ぜひフランス語で歌って欲しい、という気持を込めました。
また、クラシック界では、フランスピアノ音楽やフランス歌曲を聞くのが好きな人こそあれ、「歌う」方は、ドイツ歌曲やイタリアオペラに比べると、ぐんと少ない模様です。
これは教えられる先生が少ないことがおそらく原因でもあり、またフランス語そのものも残念ながら、選考する人が少ないからかもしれません。
フランスにいるものとしては、誠に口惜しいところです。
声楽教授国家資格を生かして、日本でもフランス語作品を怖がらず学びやすいコツを紹介したいと思っております。

初級グループレッスン 13日と14日10:30〜12:00
中級、経験者より   13日と14日13:30〜14:00 レクチャー 
                 14:00より各自個人レッスン(聴講可)
18:00より完全個人レッスン(聴講不可)

詳細http://zakkayamusique.hp.infoseek.co.jp/

雑歌屋
戸田昭子