「Art's Report site/ZAKKAYA PARIS

戸田昭子「雑歌屋パリ」

vol.2
CULTURE、教育と文化、芸術

日本では、午後の早い時間に学校が終わり、クラブ活動や習い事をする時間がある。子供から大人まで(たぶん働き盛りの人を除いて)、習い事はほとんど普通のことだろう。洋物から和物、楽しみのため、教養のため、いろいろな理由と目的で、多くの人がいろんな習い事をしている。

フランスでは”コンセルヴァトワール“で音楽の勉強が出来る。「音楽学校」と訳しているこの施設は、パリならおよそ各区に一校ずつある他、地方都市も、各市にあるし、小さな町にもある。国と、その市の援助金他でなりたっているようだが、一応有料。パリなら読み書きが出来るようになる7歳(小学校2年)から入れる。1年目は、「ソルフェージュ」=「楽譜を読む」勉強のみで、楽器には触らせてもらえない。クラス数に限りがあるので、申し込みの時点から、早い者勝ちだ。2年目から楽器レッスンを受けられるが、人気のあるピアノなどは募集数が限られるので、入るのに試験がある。逆に、人気の少ない楽器のクラスには空きが出てしまうので、希望のクラスに入れなかった生徒にはそういうクラスを勧める、ということもあるという。進級試験もある。

他では、アソシエーションによる教室に登録することも出来る。パリなら、たとえばパリ市が援助している(らしい)CENTREd‘ANIMATION アニメーション・センター、(言うなれば「文化センター」?)というものがこれまたあちこちにあり、幅広くいろんな習い事を提供している。コンセルヴァトワールは子供・若者優先だが、こちらは大人にも門が開かれている。音楽以外も豊富で、クラシックバレエからヒップホップ、体操、絵画、パソコン・・・音楽は試験がないので、コンセルヴァトワールよりは、ゆるやかに、自由にすすむ。ただ、こちらの方が費用が高い。

フランスでは平日4時半まで授業。学校が休み、あるいは半日となる水曜に習い事が集中する。この日のコンセルヴァトワールやアニメーションセンターは、子供と親やベビーシッターたちでごったがえす。

フランスの学校教育には、日本のような音楽の授業がない。中学校に入ってやっとリコーダーを吹く程度。教会や私立カトリック学校付きの“聖歌隊”はあっても、映画「コーラス」の大ヒットのお陰で「公立の各学校に、合唱隊をつくれ」とお達しがでたというのが現状である。歌う時間はあっても「楽譜を読む」勉強はしない。「楽譜」というと、顔色をかえて「それはできません」というフランス人の大人が珍しくないのは、そのせいである。譜面を読めるというのはまるで「特権」でさえある。

日本にいるときは、“コンセルヴァトワール”の名に気をとられ、フランスでは音楽専門教育が徹底していると思って感心していたのだが、実際フランス生活に入り込んでみたら、普通の教育に音楽が取り入れられていないのに驚いた。学校のあとに部活もないのでは、失業だけが理由でなくとも、不満が募るのも当然だろう。

しかし、フランスでは習い事は有料=“贅沢”なのだ。フランスの庶民の給料で生活はしていけるが、その上の”プラスアルファの趣味“は、庶民の金銭感覚では、とても高いものになる。うまい例ではないが、例えばフランスの劇場は、日本の値段と比較すれば大変安い。日本では外来オペラの数少ない学生券が、1万円以上もしていたが、フランスではその値段で、最上の席が取れるので、日本の感覚なら安いと言えるかもしれない。が、フランスではもし学生が1万円払って何かを見に行くことがあったら、”目玉が飛び出るような贅沢なこと“になる。庶民感覚では、最低の席でさえ、高い。映画も安いと思っていたが近年は8ユーロ前後となり、(一作品が普通)決して一般の人々に安いとは言いがたいものになってきた。また、ある程度の収入があっても、そういうものにはお金を払わないケチ、という人もいる。

こうなると、テレビが一番かんたんな娯楽となる。(これも年間税金として有料ではあるが)日本のようなバラエティ番組は少ないが、くだらない番組もあるし(教育番組は殆どない)、映画もそれでほぼ毎日見られる。また、フランスの田舎に住んでいたら、舞台を見ることはいちいち車での外出を意味し、面倒くさいことだ。

コンセルヴァトワールや文化センターへ「行く」ことは、「行ける」金銭的余裕があることで、庶民には贅沢なこと。学校では音楽教育がなされない。フランスの教育で、実際に“文化”にどれほど接してるのだろうか?音楽に関しては乏しく、不公平であるとしか、言いようがない。もし音楽教育が徹底していたら、もう少し、フランスの庶民は文化・芸術に関心をもつのだろうか?若者が暴れることも、減るのだろうか?

CULTURE“カルチャー”「教養・文化」を意味する言葉は、一方で「培う」という意味であり、CULTURE=「耕作」、つまり「農業」である。

「パリは文化都市」でも、「フランスは農業大国」。

学校教育の責任は大きい。

(vol.3 「病と音楽」へつづく)