Art's Report site/ZAKKAYA PARIS

戸田昭子「雑歌屋パリ」

vol.6
「番外編」

みなさまいかがお過ごしでいらっしゃいますか。
4月も10日を越えましたが、まだまだ空気の冷たい日もあるパリです。

パリから電車で1時間近くの市の音楽学校で、歌とピアノの生徒の試験の審査員をしてきました。

フランスの公立音楽学校は現在「4年ごとのサイクル」が2サイクル。
サイクルの終わりに試験を受け、進級しても良いかどうかを決めます。
2サイクル、8年分が終わるときは、卒業最終試験があります。

与える結果は3種類、
tres bien トレビアン、(審査員全員同意、賛美をもって、というのもあり。)
Bien ビアン、 ここまでは、上に進めます。
その下はassez bien アッセ・ビアン まあいいでしょう、といった所ですが、
要は落第で、やりなおし。
(Assezとは、充分に、といったような意味ですが、ビアンだけより、ネガティブ)
また金メダル・銀メダルあるいは一位、2位ということもあります。
つまり、順位ではなく、名称として「1位」なので、何人も一位がいることがありうるのです。

ピアノには課題曲と、自由曲があります。
サイクル1 A.Webern “Kinderstuck”    ヴェーベルン
サイクル2  Ligeti “Musica ricercara 3, 4”  リゲティ
最終試験  ブラームス ラプソディ1

4,5年のピアノのあとに受ける試験ですから、みな10歳は超えているようですが、ヴェーベルンの作品は、
演奏に個性がないと、退屈します。
でも、10代前半の若者の演奏に「個性を求める」というのは、きびしいような気がしないでもありません。
人間に個性がなければ、そこから出てくる「音」にも個性は現れません。
先生がいくら指導しても、物真似に終わってしまいます。
この時点で、基礎的なことが出来ていれば、個性は次の段階でもいのではないだろうか、と思ってしまう私は、日本人・・・なのかなあ。
フランスならでは・・・でしょうか。

最終学年の方は、要は「卒業試験」です。
内容も、課題・自由曲の他、「音楽教養についての口頭」「初見」が増えます。
「初見」とかきましたが、これは10分の準備時間があり、短い曲を自分自身で仕上げるという課題です。

音楽についての質問は、たとえば「ラプソディって何ですか」
・・・なかなか細かい質問だなあ、と思った次第。

さて、学校長の話では、
「最終学年には、ふたつ目的を考えることが出来る。
1.さらに上級の学校で、音楽の勉強を続けたい生徒。
2.または、アマチュアとして、自分である程度、やっていける生徒。」

この段階より上の上級音楽学校ともなると「プロ養成」につながっていきますが、公立の音楽学校はいろんなレベルで、各地にあります。
だから、プロ養成だけが目的ではないのです。
これを「アマチュアとして、自分である程度、やっていける」
と形容され、的確に音楽学校の存在意義をもたせている学校長に、感心しました。

税金でなりたっている施設なわけですから、地元の人々とも密着につながっている。
ここは、地元に意味のある音楽学校だ、と思うのです。

試験という面では、学校によってもレベルが違うので、簡単にOKかどうかは言い難ものですが、あれこれ考えさせられて、楽しかったです。

では以下、蛇足ながら・・・・
最終課程とはいえ、課題のブラームスのラプソディってのは、難しすぎるのでは!?
と思いました。
ひとり目は外しっぱなしで、思わず反対しそうになりました。
しかし彼女の自由曲(ハチャトリアンのトーッカータ)は、たいへんおもしろかったのです。
「ブラームスあまり好きじゃなかったでしょ?トッカータは大好きでしょ?」
と聞いたら、図星でした。
そういうタイプの生徒、いるんですね、好きな曲は喜んで練習するという。
(でも、他の審査員は、トッカータが気にいらなかったらしいなあ。)

もうひとりは、痩せた体で音量はないものの、ブラームスはきっちり弾きこなしました。
が、自由曲のドビュシーが、私には物足りなかったのです。 
こちらにイメージが沸かずじまい、タイトルの「月の光」を思って演奏していたようには思えず・・・
曲の中で内声と外声を際立たせる必要があるのですが、それが物足りなく「バッハの勉強しましたか」と聞いたら、かなり少なかったようです。
これだけ弾ける子なんだから、バッハの2声・3声全曲くらいやらせて欲しいと思いました。

歌の専門家として審査員に呼ばれたわけですが、20年間習っていたピアノの試験の方がおもしろかったです。
関節リウマチのために手が痛いわ、指の腱が切れるのが心配だわ、で自由に弾けないのは、つまらないこと・・・・でも、魂だけ、まだ、ちょこっとピアニスト。

4月11日
とだあきこより