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2011年2月のコラム



「勝ち負け」

 数年前に登場したWIN/WINという言葉が嫌いだ。どちらにも利になる関係、平たくいえば一緒に儲けましょうというくらいの意味の営業用語だが、いまは役所で流行っている。確かに仕事によっては互いに儲けるということもあるが、発注と受注という関係では発注側が有利なのが通常だ。役所も甲乙構造が強く、近年、特に甲乙構造が強まったように思う。一つには景気低迷で企業の株が下がり、公務員志向が強まったこと。また事業仕分けなどの「公正性」によって入札が増え、金額重視となったことも一因だろう。つまり、WIN/WINとは、所詮、仕事を円滑に進めるための方便なのだ。

 相撲では星の貸し借りが売買にまで発展した。実は相撲賭博を隠そうとしているのではないかと思うが、勝負の世界は勝ち負けが重要だからこそ問題になる。勝ち組負け組という言葉が流行ったが、WIN/WIN言葉の流行はその反動かもしれない。だが、勝ち負け自体を曖昧にすることは、結果として甲乙構造を強めるだけだろう。

 途上国へのフェアトレードという言葉があるが、どの程度がフェアなのか。極端に儲けず、搾取しないというくらいの意味に思える。貿易自由化と国内保護の議論も高まりをみせるが、国内産業を壊滅させる施策は多いに問題。だができるだけフェアで、競争原理にのっとった貿易で輸出は発展させたいだろう。つまりは輸入と輸出の兼ね合いだ。このように、何事にも勝ち負けが存在する。サラリーマンが野球などスポーツの勝ち負けにこだわるのも、仕事では果せない勝利の代償、精神的な安定のためかもしれない。その意味でも、八百長などでそれを壊してはいけない。
僕個人としては、勝ち負けという考えはあまり好きではない。批評家として審査をしていても、評価の仕方を模索するのが常だ。それでも勝ち負け、黒白をつける必要がある場合は、変な外国語などで曖昧にせず、クリアに行いたいと思っている。

(2011/2/28 志賀信夫)



どんなに寒くても、立春を過ぎると空の色・雲の色・空気の色が春めいてくる。冬中手放せなかったもこもこのダウンが突然、ものすごい重さに感じられる。昼休みには、のんびり・のほほんとした色合いに騙されて、うっかりコートを着ないでビルの外に出てしまったり、陽が長くなったと浮かれてみても、やはり気温はまだ冬。特に東京はこれからが雪が降りやすい時季。
ほんの少し、雨が雪に変わったくらいでも、東京の電車が止まったのはもう昔のことのよう。
先日の雪でも、意外や積雪のための運休は少なかったもよう。「困った・困った」と言いながらも、雪が降ればテンションあがって、いっそ全面運休で会社を休まざるを得ないことを期待するのはみな同じだろう。「電車が動かなくって」と欠席の電話をすることを夢見て眠る。
一夜明けて、ほとんどの電車が何事もなく通常運行と知ると、二度 寝のつもりが起きなくてはならなくて、悔しいやらもったいないやら。こんなことだったら、昨夜、誰もいない小学校の校庭に思いっきり雪にあしあとをつけに行けばよかった。雪だるまくらいつくっとけばよかった。
それで熱を出して会社を休めれば本望。1月・2月はインフルエンザが流行ったりするし、と取っておいた有給休暇は実は雪の降った日に休むことをもくろんでのものでもある。

東京の14日の大雪。全国ニュースでもトップ扱いだったそうだ。ニュースを見たという東北の友人宅では爆笑だったそうだけど。
あの、ひらひらと舞うようで水分を多く含んだ雪が東京の雪。いちど気合を入れたら、あっという間に積もる。フロントガラスにもべちゃっと貼りつくし、歩いていてもすぐに傘は重くなり、顔にも服にもぶるぶるっとしたくらいでは払い落とせない粘着雪。靴が埋もれるくらいに積もっていても、喜んで踏むとすぐにアスファルトの固さが足に響くふわふわの雪。手袋はすぐにびしょびしょになるけれど、雪合戦の雪玉には最適。
雪の夜空は妙に明るくて少し赤みがかったグレー。この鈍い鼠色に江戸っ子のテンションはアガる。南の島の鮮やかなブルーの空が下品に思えてくる。鼠色や茶色という渋い色合いに日本はたくさんの名前を付けてきた。利休鼠・秘色・暁鼠・潤色。羊羹色なんていう美味しそうな名前も。そういう色に着物を染めて着てみたいのは、昔から憧れだったよう。だけど、やはりかなり年配の、それも粋な人が着てこそ、美しい色に映る。
歌舞伎の舞台ではしんしんと降る雪を太鼓の音で表す。ゆっくりとした間合いの太鼓が聞こえる。さらに文楽の太棹。尽きぬ雪に早回しの半鐘の音。ではなくて、通行や火の元に注意を促す消防車の鐘だけど。それでもバレンタインデーの深夜、八百屋お七の豪華な振袖も思い描きつつ。。。ポール・ギャリコの「雪のひとひら」中谷宇吉郎の「雪」などを拾い読み。江戸東京の印象的な画は、雪景色。広重の名所江戸百景も川瀬巴水の版画でも、墨邸の桜よりも深々とした風景に「春が近い」と感じる。

(2011/2/21 WADA)


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