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2010年7月のコラム



「残り湯」

 暑い。最近、家で仕事をすることが多く、暑さが身に染みる。クーラーはあるのだが、30年近く前に買った窓用で、効かない。通勤して仕事をしているときは、歩く間以外は冷房が効いていて、遅い帰宅で寝るだけの毎日では、夏がいつの間にか過ぎていくのだが。やむなく、暑くなると風呂の残り湯をかぶる。寝室にクーラーはないので、ベッドに敷く硬いジェルの入ったシートを購入した。30分程度はかなり涼しいが、目覚めるとやはり暑く、汗びっしょり。すぐに風呂場に直行する。
 家にいると、ネット通販も増える。この冷えるシートも、テレビの宣伝を見て、ネットで値段を比較して購入。仕事の資料も、古書検索とアマゾンを活用する。翌日届くものもあり、都内へ1時間以上の身としては、実に便利。プリンターインクも、店よりはるかに安い代替品がある。
 そうやって、実に電力を無意識に使っている。ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ICレコーダー、ビデオカメラ、音楽プレイヤーなどの充電器や電池があり、冷蔵庫は冷凍食品に占有されている。電力を使わないものなどごく僅かだ。
 アフリカなどの途上国の開発を見ていると、電話網より携帯電話がインフラのコストがかからず、普及し始めているという。太陽光発電や自家発電も含めて、発展とともに電気が広まっていく。僕が生まれたのは戦後10年目。それからの現在までの生活の変化から考えると、発展や文明とは電力の活用とともにあるようにも思える。
 有機農法、環境問題などの意識を抱き、晴耕雨読、太陽とともに起き眠る生活をしたとしても、電気の恩恵を甘受せずには生きていけない。節電が温室ガスを削減するといいつつも、新しい製品を生み出し、使用していく限り、電気の使用量は増え続ける。
 ただ、この残り湯は、数日すると水道の水より冷たい。それを浴びるとき、そして自然の風で涼むときに、なんともいえない思いを感じるのだ。

(2010/7/26 志賀信夫)



「笑いの意味」

 選挙、サッカー、相撲と話題の多い日曜、つかこうへいの訃報が入った。井上ひさしに続く優れた演劇人の死。井上ひさしは作家として活躍したが、芝居も傑作が多い。『日本人のへそ』は大笑いした記憶がある。『天保12年のシェイクスピア』など、演劇の実験も行った。そしてつかこうへい。『熱海殺人事件』の衝撃は大きかった。「ブスは死ね」が繰り返される舞台は、一緒に行った女性の反応をつい窺った。『蒲田行進曲』では、柄本明を発見した。二人ともユーモアを重視した作品作りをしていたが、社会に関する意識も高かった。井上ひさしは戦争を考える作品も多い。つかは団塊世代で、革命と挫折が感じられる作品もある。

 井上ひさしは新劇だが、つかこうへいは小劇場の先駆けの一つ。VAN99ホールは100円100人以上だと税金がかかるので、99円という入場料を設定した99人の小劇場で、つかはそこから出て、紀伊国屋ホールを中心に多くの作品を作った。

 笑いは時代を映す。つかの舞台を見なくなったのは、「笑えなくなった」からだった。「ブスは死ね」は当初衝撃だったが、ビートたけしの毒舌などが登場して意味を失い始めた。劇団員たちはドラマで活躍し、多くがお茶の間の顔になった。小劇場のいくつかは、東京乾電池、ワハハ本舗など、笑いをテーマにしているところが生き残っている。劇団員がテレビで活躍し、それにより観客が集まるからだ。

 いま、テレビはお笑いまっ盛り。子どもが一番よく知っているのは、アイドルではなくお笑いタレントだ。家に帰ってややこしい話ではなく、カラカラ笑って気分転換。しかし、そんなときに、毒のない笑いや人を貶すばかりの笑いにがっかりすることがある。
 つかこうへいが「ブスは死ね」といったときに、それは意味を持っていた。つかの死とともに、少し「笑いの意味」を考えてみたい。消費税増税で大敗、名古屋場所出場禁止という笑えない時代なのだから。

(2010/7/12 志賀信夫)


夏は夜。雨など振るもおかし。
ブラインドをちょっと広げ、「鈍」と曇った夜空。月なんか見えやしない。
それでも部屋の明かりを落とすと、外灯がブラインドの格子模様を白い壁に映す。
やはり影は、ちょっとだけ涼やかな気分。

と、ちりちりと。
アナログレコードに針を落とした時、ラジオのスイッチを入れた時、のような、ちりちりとした微かな音が聴こえてくる。
音連れ 訪れ 雨の降り始め。
乾いた地面が雨を拒絶しているような音。
これは、雨音の中でも聞き逃したくない音。

これから、ウィンブルドンの女子決勝だし、もう少ししたらワールドカップの準々決勝だし。
でも、テレビを消す。静寂にはならない、土が水を受け入れていく音。
雨脚が強くなり、ベランダの手すりに時折、命中する雨粒の甲高い音。
水たまりに弾けるウォータークラウン。

そうだ、お香を焚いてみよう。
煙草を吸わないから、ライターなんて持ってない。
マッチを置いてある喫茶店もなくなったかも。
火種は、お香を入れた引き出しに残ってた、ジャズクラブのブックマッチ。
もう湿気てしまったかな。なかなか火がつかないのは湿気たからか、下手なせいか。
ようやく、灯る火。マッチを擦った瞬間の、この匂いもお香に匹敵する好きなもの。
暗くした部屋にお香に点いたポチッとした火、そこから立ち上るまっすぐな白さが見える。
しっとりとした、ひんやりとした空気が窓から流れてくる。
香りの揺らぎが目に映る。

雨は本降りになり、雨樋から滴る音も加わり賑やかになってくる。
わずか三寸のお香を焚くほどの刻。


(2010/7/6 WADA)


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