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2007年4月のコラム

【コラム】

しとしとと雨の降る日。「念のため」1日取った休暇は案の定、午前中の早いうちに用事が終わってしまって、どうしようかなぁという月曜日。ほとんどが休館だけど、いくつかの美術館は開いている。オープンしたての六本木の美術館もこの天気なら空いているかもと思ったけど、雨ならば、やっぱり、ここに行かなくては。東京都庭園美術館へ。

中に入ってしまえば雨は関係ないけれど、ここの雨の日の風情は格別。建物へと向かう木立の道の大木は、雨を一旦すべて飲み込んでしまう。だから、その木の下のアスファルトは他の場所よりも濡れていない。時によってはまったく濡れていないこともある。そして、枝の先から、雨粒よりも大きなドロップを滴らせる。針葉樹の指先から滴るその粒は、十分に濾過されているだろう。いちど、飲んでみたい気がする。

4月・5月は、木々がともかくもすべての葉っぱを枝に溢れさせ、太陽も水分も飲み込める限りを受け取ろうとしているようで、少し遠くから眺めれば、ブロッコリーやパセリのような緑の小山のように見える。その緑が生きている様子を見たくて、庭園美術館に行く。東京の四季が楽しめる庭園もその回りも、手を尽くしているようなほったらかしてあるような伸びやかな大木は、夜中に見たらかなり恐いと思う。怪物が吠えているように感じるだろう。悪夢のようなその姿に怯えることも、自然に畏敬の気持ちを持つ大切な儀式なのだと思う。
美術館の中では「モダン日本の里帰り-大正シック」という展覧会をやっている。私の大好きな美人画。描かれている装いは大正モダンの和服で、でも背景には自動車やソファなども配されて、アールデコの美術館で展示されるにふさわしいもの。展示室は朝香宮邸であった頃の家具などそのままに残されていて、美人画と建物と両方を存分に堪能。

雨の平日だったから、人出も少なくて、やはり今日ここに来てよかったと思う。部屋を巡る折り、歪んだガラスの向こうに雨の庭園の様子を見ることができる。薄紫の花房がわずかに覗く藤棚、俊敏そうな動物の置きものがある芝生。

美術館巡りをするぞ、と気合いを込めた日はそれなりの拵えで行く。そして、庭園美術館に入ると自分の不粋な靴にげんなりする。カタログを詰め込む想定の斜めがけの巨大なバッグも後悔する。この日は、他の用事を済ませた後だったので、ハイヒール。ここで暮らしたであろう佳人、美人画の令嬢に及ぶべくもないけれど、自己満足。

心残りは、一度座ったら優雅に立ち上がるなんて到底できない深いフカフカのソファで、お茶を飲みながら雨の庭園を眺めるのに、誰もいないカフェに踏み込む勇気がなかったこと。あまり空き過ぎもちょっと残念。

(207.4.23 WADA)

【コラム】

●正か定か悪か

 国民投票なるものをやりたがっている人がいる。憲法を変えたいらしい。そして自衛隊を軍隊にしたいという。これは戦後50年以上、自民党と右派勢力の悲願だった。主張は当時とまったく変わっていない。そして不思議なことに、国際問題であること、アジア諸国にとって脅威であることなどは無視されている。軍隊にすることで日本の自立が高まるというが、とんでもない。米国に歩調を合わた軍隊など、従属度を高めるだけだ。

 実は日本の軍備増強は、米国とネオコンの意向に添ったものだ。軍需産業が日本の購買力を求めている。イラク派遣などがことごとく失敗し需要が減っている。対立するイスラム諸国にも売れなくなった。そのためにも、日本の市場拡大は必須だ。それに乗じて政府与党と企業は軍事特需を見込んでいる。「愛国心」も「理想」もなく、経済原理だけ。むしろ「売国」的行為ではないか。

 憲法改定は、世界で軍縮が進むなか、逆行し、他国の脅威になる。いま実際に日本に被害を与えているのは中国、北朝鮮より米国だ。経済圧力、牛肉、基地などきりがない。そしてもっと被害が大きいのは、自然災害だ。文明がいくら発展しても、地震、津波、台風などの災害には勝てない。

 自衛隊はこれまで災害時に活躍してきた。むしろ今回野党は、自衛隊を災害防衛隊に変える法案をぜひとも提案し、闘ってほしい。高価な米国製戦闘機や武器を整備するより、災害対策設備とシステムを充実させることが、地震大国日本にとって、遥かに役立つことは自明だ。日本の緊急援助隊の評価は国際的にも高い。災害防衛隊が加わり他国の災害援助を行えば、軍隊の派遣よりよほど大きな国際貢献となる。「人」ではなく災害と闘う部隊を必要としている。

 何かを「改正」するなら、正しいことを行うべきだ。金勘定を元に理想を唱えるのはやめよう。彼らは「美しい日本」をさらに汚そうというのだろうか

(2007.4.16 志賀信夫)

【コラム】

奈良とか京都とか鎌倉に行きたいなぁと時々思います。思うたびには行かれないけど、年に1度はこのどれかに行っています。行きたい理由は様々ですが、共通しているのは、かつて「都」であったところ。そこに何かありそうな気がして考えてみると、都であった頃の文化から政治を抜いた状態で、その文化を矜持としているところ。そして、今、中枢から距離を置いていても、自らが置いた距離であって都とは違うリズムで新陳代謝を継続しているところ。観光地となった「通り」の中には、「○○銀座」化されているところもあるし、文化を継承しているようでいて、いっときの流行でしかないものもありますが、都であった頃からそんな熱はあり、淘汰されてしまう枝葉であったでしょう。概ね、駅に降り立っただけでその町の空気が感じられる場所であるのは確かだと思います。であるならば、東京の首都移転は賛成。というより遅すぎる。できれば明治維新まで、でなければ戦前までが随筆や小説から窺える東京のいい時だったかと思います。

今、鏑木清方の随筆に出てくるような姿では、会社勤めなんてできないけど、東京が首都でないならば、それに近い暮らしもある程度はできるのではないかなぁ。

さて、どういう気持ちが働いてかわからないけど、今、鎌倉に行きたい気分です。湘南ライナーやアクティーに乗って行くのが便利なのはわかっているけど、行くならば、時間はかかってもやはり東京駅からボックスシートの電車で行きたい。それが今走っている電車かどうかわからないけど、アルミじゃなくて鉄って感じの。
到着は、北鎌倉駅。小さな小さな駅で、周りには有名なお寺もあるのに何故か観光客の姿が目に付かないので、自分ひとりが余所者というドキドキが嬉しい。まず東京に戻る方向へ行き、お寺を拝観。鎌倉のお寺は宗教色が薄くて、個人のお庭を見せていただいている感じが強い。美味しいお店が北鎌倉周辺に集中しているのが残念。北鎌倉でゆっくりお昼を頂いていると、他を見る時間が少なくなってしまう。せいぜい甘いもの。お持ち帰りの稲荷鮨も今ここで買う訳にはいかない。ならば、逆のコースで始めればいいのだけど、そうはいかない。鎌倉駅と北鎌倉駅とでは、駅に降りた気分が違うので(結局、鎌倉駅に出なければ帰りにくいし)。

鶴岡八幡宮の裏側に出る道を歩く。境内にある近代美術館のカフェのテラス席でランチ、というのがお腹にはちょうどいいペース。そこから山のほうへ向かって行けば、静かなお寺をいくつか拝観できるのだけど、ついつい小町通りや若宮大路に向かってしまい、物欲と食欲を満たすのみで、鎌倉駅から東京に帰ることが非常に多い。泊まれば、もっとあちこち見て歩けるし、古都らしさも味わえるのだけど、京都・奈良に日帰りや1泊で行くのが惜しいように、鎌倉は日帰りという微妙な距離感が魅力のひとつでもあると思います。

(2007.4.9 WADA)

【コラム】

●ドラマの春

 季節が変わると1本くらいは面白いドラマがある。前期は倉本聰の『拝啓、父上様』だった。若い板前が親にあてた手紙のモノローグという形式と、以前、萩原健一が演じた『前略、おふくろ様』の焼き直しタイトルで、まさに「倉本も焼きが回った」と思ったが、どうして、うまい。花街の風情を残す神楽坂の料亭が取り壊される設定。八千草薫が料亭のおかみで、愛人の老政治家が亡くなり本妻と対決する場面は、森光子と芸の火花を散らし、凄かった。そしてその八千草がぼけていくという、伝統と現代の対比もいい。
 何度か復活した刑事ドラマ『相棒』も、子どもに録画したのをつい見て、はまった。複雑な脚本と水谷豊のクールで明晰なキャラクターが魅力。水谷は萩原健一との『傷だらけの天使』で有名になった。「兄きぃ」と萩原につきまという情けない役で、「相棒」とは正反対。映画の脚本家と監督の組み合せで映画的魅力があった。
 倉本は『北の国から』以降、北海道ネタが多い。若者ドラマの山田太一も、近年は「老い」がテーマ。だが、上質な彼らのドラマも少なくなった。
 4月はまず、『照柿』以来注目している井上由美子のシェークスピア翻案が2夜。1夜の『リア王』は『照柿』の高村薫も小説を書いた。もうひとつは『時効警察』。迷宮入りになった事件を捜査する刑事物で、人気のオダギリジョーもいい味だが、ケラリーノ・サンドロビッチ、岩松了などの劇作家の脚本が面白く、続編が始まる。『TRICK』のようにマニアックなファンをつかみ、宮藤官九郎や松尾スズキと同様、演劇からドラマの枠を超える試みだ。

 だが一方で、リメイクものやマンガ原作ものが多い。ドラマで2回、映画でもという『東京タワー、…』など、既存の人気に頼りすぎだ。そしてドラマも映画も小説もやたらと「感動」を売り物にする。しかしその実態は、お笑いとマンガだらけという「美しい日本」に、春はくるのだろうか。

(2007.4.2 志賀信夫)

無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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