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2005年8月のコラム

【コラム】

2006.8.28


中西圭三さんのライブに行ってきました。今年の夏の、夏ならではのイベントの唯一のものとなりそうです。基本的にボーカルのライブにはごく少数のお気に入り以外には行かず、でも行ってみれば「食わず嫌い」であったことをしみじみ感じたりして、収穫はあるものなのですが。中西さんの生の歌声は何度か聴いたことがあり、期待もまずまず、横浜の赤レンガ倉庫でのコンサートに行ったのです。コンサートのタイトルは"DAZZ SOUL"CLUB。ジャズ、じゃなくてDAZZ?それに惹かれたのも大きかったし、ものすごい蒸し暑さに何事もやる気がなくなっていた日々の気分転換もしたかったし。。。歌ものを聴かない普段への言い訳を連ねていますが、「よかった!」んです。


赤レンガ倉庫。着いたころは、薄暮、トワイライトタイム。石畳の、視界が開けたところに二棟の赤レンガの建物。何とはなしにいい風情で風が通り抜けていきます。海風ではなかったのでさわやか。コンサート会場は、体育館といったサイズ感のホールですが、壁にはやはり赤レンガ、ノスタルジックな色の照明も手伝って「はぁ〜」と落ち着いて開演を待ちます。


静かに大人っぽく、でもにこやかに中西さんの登場してスタート。日ごろ、至近距離で演奏の手元を凝視するようなライブにばかり行っていると、ステージと客席との距離感がここちよく新鮮でもあります。なにより、音響のよさと歌・演奏の一体感に酔いました。


ドラム、ベース、ピアノのトリオ編成のバンドと中西さんの声のどれもが、朗々と豊かに響いています。楽器の乾いた音が夏に聴くには本当に涼やかで、月や星や、天体が奏でる音のように響いて染み入ります。対してボーカルは、水のように強く柔らかく。中盤からはスタンダードなジャズナンバー。中でも#CALLING YOUがすばらしかった。ホリー・コールのボーカルが印象的で、特に高音部は彼女の声でしか歌が許さないような感があるのですが(「バクダッド・カフェ」のサントラ盤では彼女以外の女性と男性のボーカルが2曲ですが、どうも物足りなく)、中西さんの声の艶にもぞくっとするような強さがあります。そして、砂漠の熱い風が巻き上げる砂塵のように、時にはサラサラと流れる砂のように響くドラム(鶴谷智生)。涼やかな木陰のようなウッドベース(西嶋徹)の静かな響きとオアシスに湧き出る泉のようなピアノ(青柳誠)。乾いた熱さと月星しか瞬かない暗闇と、日本では望むべくもない夏の映像が浮かび上がります。


夜空を見て「地球は丸い!」と改めて気づいた時の足元がぐらつくような浮遊感とそれでも誰かを背中に感じる安心。赤レンガ倉庫に着いたときの薄暮の風景そのままに、ほんのわずかな時間に現れる自分の周りの「何か」への畏怖を思って、なにやら感動。目に見えるものより音で感じる「音連れ」なのでしょうか。(私にとっては)ネガティブな夏が、うれしい秋へとシフトしていく瞬間に立ち会えて何か励まされ「人の声って強い」と思ったのでした。(WADA)

【コラム】


食とカナリア


 テレビで化学物質過敏症の子どもたちを見た。農薬散布などで有機リン中毒になると、よくいわれる建材の薬物だけでなく、香水や衣服の洗剤などの化学物質にも反応し、頭痛やめまい、思考障害などに苦しむ。神経に異常をきたすらしい。同級生の衣服などに反応するので、教室にもいられない。農薬の無人ヘリ散布が大きな原因らしい。

 小さい模型ヘリによる散布は、低空で農薬が広がらないと歓迎されたが、タンクが小さいため高濃度の農薬を撒く。日本では欧米で禁止され始めた有機リン農薬を使う。毒ガス開発で生まれたサリンと兄弟の農薬で、虫の神経を麻痺させるが、当然人間にも影響がある。群馬県は独自に調査し、空中散布中止に踏み切った。

 農地だけではない。都内の芝生にも同じ薬物が使われ、国立競技場付近に住むある兄妹は散布時に避難する。シロアリ駆除剤で中毒になった母子もいる。この被害に自治体が懸命に取り組んでも、農水省は「花粉症と同程度のアレルギー」として対応しない。中央省庁や農協には農薬会社との権益が背景にあるからだろうか。

 水俣、薬害エイズ、アスベスト、いずれも官庁が危険性を知りながら、権益がらみで見てみぬふりをしてきたことが、被害を拡大させた。担当者は自分の家族が被害に遭うというリアリティで対応しなければ、国民に被害を広げる。それは犯罪として裁かれるべきことなのだ。

 花粉症などのアレルギーが増えている。体質が変わった原因の一つは食だろう。野菜のビタミン含有量は4〜50年前の十分の一以下。合理化した生産が「薄い野菜」を生み、代りに残留農薬や化学添加物を摂取させる。

 テレビではこの子どもたちを、炭鉱内で危険を知らせる「カナリヤ」と表現していた。だが、かれらは特殊なのではない。理不尽な牛肉輸入再開もそうだが、工業化、効率化、経済を追求する方針を食にまで浸透させ、安全を犠牲にしてきた歪みに、そろそろ気づくべきときだ。 (志賀信夫)

【コラム】

2006.8.14

昨年の初夏。国会議員もクールビズ、とテレビが伝える中で、ノーネクタイにご機嫌の小泉首相に記者が訊ねました。

記者「外国の要人が、ノーネクタイを不快に思われたらどうしますか?」
首相「そりゃ、ネクタイをしますよ。相手が嫌だと言うなら合わせますよ。嫌がられてまでやることじゃない。それが思いやり、人間の付き合いってもんでしょう」

言葉の端々は正確ではありませんが、ようはそういうことを言っていました。今年の8月15日に首相はどうするつもりなんだ、と話題になっていた頃。首相のこの発言に私は、「確かに聞いたぞ」と鬼の首を取ったような気分になったものです。「地球温暖化防止のため、環境のために、このスタイルを通します。」と言い切って会談するほうが、外交の場で信頼できる姿だと思います。見た目ちょっとヤダと思われるほうが、たくさんの人の傷口に毎年塩をすり込んで、傷が癒える間さえ与えない行為よりマシです。被害者・加害者とか、戦犯・英霊とか、誰もが納得できない状況を打開できる立場にいながら、それをせずに人に嫌な思いをさせ続けるってどうなんですかね。

個人がどのような思いをもって、いつ参拝するかは、本当に個人的な問題だし、自由が守られるべきだと思います。でも、首相です。国会議員です。一個人としてだの、ポケットマネーだと言っても在任中は24時間公人です。ポケットマネーのつもりでも税金から給与を受け取っている間はNGでしょう。

毎日「適切に判断する」と言い続けても、誰も納得しないということは全然「適切」なんかではないということです。地味であっても守り通すべき事柄も、あちこちほったらかしで山積みになっているのに、それらに目を向けず、ジュークボックスに踊り狂う首相とか、らくだに乗って大はしゃぎ、などという場面は見たくないわけです。そんな暇があるならば、ステーキを食べながら「今度まちがいが起きたら、取り引きは一切しない」くらい言って欲しいものです。

仮にも一国の(自分とこの)首相が、おバカさんな訳はないと信じたいものですが、毎日のニュースの中で、首相を記者が取り囲む一場面を目にするたびに耳を塞ぎたくなる思いです。一般大衆は、「隣近所とは仲良くしようよ」と願うばかりです。そうそう、「大事の前の小さい約束など守るに値しない」というようなことも年金問題の頃でしたっけ、言ってましたね。小さい約束ひとつ守れない人間に大きな仕事などできるはずもないのに。(WADA)

【コラム】

家族の肖像


 最近よく親殺し、子殺しが報道される。少年犯罪もそうだが、一つ起こると似た事件が続く。誘発する、模倣される部分もあるというが、報道の影響も大きい。昔から邪魔な親や子を殺す事件が起こるが、いまはすぐクローズアップされ、心理や異常性を執拗に取り上げる。心理学者はテレビのためにいるかのようだ。

 親殺し、子殺しは流行しているのか。戦後の混乱、江戸の貧困期、口ぺらしや間引き、また遡れば神代の歴史やギリシャ神話などは家族間殺人事件だらけだ。では家族殺人は非情、異常なのか。憎悪や怨恨が積み重なるのは、家族のほうが大きいかもしれない。マスコミは健全で愛し合う家庭という幻想をつくり、殺人をことさらセンセーショナルに扱おうとする。

 むしろ家族殺人は人に迷惑をかけない。他人を殺害すると、加害者・被害者の周囲が苦しみ、両方の親や子、親類・友人を巻き込むから、関係者は二倍だ。また通り魔殺人や快楽殺人、交通事故で理由や犯意なく殺される場合、被害者には文字通り理不尽だ。その点でいえば、家族殺人は他人殺しよりもいいかもしれない。

 ジダンの頭突きはワールドカップに汚点を残したが、ボールをもった格闘技というサッカーは、けっしてきれいなスポーツではない。イタリア選手の発言に家族の中傷と移民差別があがった。移民は家族の結びつきが強く、外国人は家族を大切にするといわれ、日本では核家族化、家族崩壊に拍車がかかる。だが一連の家族殺人は、家族への執着そのものだ。

 先日、劇団tsumazuki no ishi『無防備なスキン』を見た。犯罪被害者、加害者家族をリアルかつ幻想的に描く傑作だった。家族の報道被害が問題になり、パパラッチが王妃を殺しても、マスコミは追い続ける。僕たちの視線と欲望がそれを求めているからだ。テレビという枠のなかで、崩壊する家族の姿を眺めて、少しドキドキしながら、自分は安全だと胸をなでおろすのだ。(2006/8/7 志賀信夫)


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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