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ヤマさんの公表雑文帖

1998年高知のオフシアターベストテン
機関紙「ぱん・ふぉーかす」第113号('99. 1.29.)掲載[発行:高知映画鑑賞会]

*外国映画    監督名
『ウェルカム・トゥ・サラエボ』[4-1票] マイケル・ウィンターボトム
『ファンタスティック・プラネット』[2票] ルネ・ラルー
『ガタカ』[3-2票] アンドリュー・ニコル
『ミクロコスモス』[3-2票] クロード・ニュリザニー/マリー・プレンヌー
『フル・モンティ』[3-2票] ピーター・カッタネオ
『スリング・ブレイド』[2-1票] ビリー・ボブ・ソーントン
『ブレイブ』[2-1票] ジョニー・デップ
『アグネス』[北欧映画祭より][1票] エイイル・エズヴァルズソン

*日本映画    監督名
『パーフェクト・ブルー』[4票] 今 敏
『四月物語』[4-2票] 岩井俊二
『CURE』[4-2票] 黒沢清
『バウンス ko GALS』[3-1票] 原田真人
『秋津温泉』[3-1票] 吉田喜重
『十字路』[2票] 衣笠貞之助
『笛吹川』[3-2票] 木下恵介
『身も心も』[3-3票] 荒井晴彦


 年末の29日に高知映画鑑賞会の運営委員を中心とした忘年会の席で1998年を振り返った高知のオフシアター・ベストテンの選出をおこなってみた。参加したのは9名で、私のほかは、浜口真吾、大山由紀、正木康朝、吉川修一、西川泉、橋田康世、川村五博、田辺浩三の各氏である。シネマサンライズやムービージャンキー、高知シネマクラブ、小夏の映画会など自主上映団体の運営に携わっていたり、地元の情報誌「HOTこうち」や「ドリームボール」で映画紹介をしたりもしている無類の映画好きの面々だ。

 忘年会と称してこういう座談をやろうという話になったそもそもは、近年のオフシアター上映作品が驚くべきほどの数になってきたからだ。昨年一年を振り返ってみると、私が拾い上げただけでも日本映画で約50本、外国映画で約90本、合計140本余りもの作品が、映画館の興行とは異なる形で上映されていた。劇場公開作品については、高知新聞と興行組合が中心となって毎年実施している恒例の「県民が選ぶ映画ベスト・テン」で、一般投票結果と地元映画評論家の星加敏文、細木秀雄両氏の選出作品を講評とともに新聞掲載してくれるのだが、オフシアター上映作品のほうは、これだけの上映作品数になっていても振り返る場がない。それは少々さびしいことだし、今や選出に足るだけの上映作品数にもなっているのではないかというところから、年末の運営委員会でベストテン選出の話が持ち上がってきた。各運営委員それぞれの選出をしてもらい、一挙に掲載するというスタイルは、十年くらい前にこの紙上でもやっていた。ただし、当時は今ほどオフシアターが活発化していなかったから、高知の圏域を問わず、ビデオも劇場公開作も含めて各人が気ままに対象作品を設定していた。でも、今回は各人の意見それぞれの発表に留まるのではなく、共同選出という形に集約してみる試みに意義と興味を覚えた。

 選出方法は、昨年一年間の上映作品141本を日本映画と外国映画に分けて、その一本一本について観たか観てないかとともにベストテン候補に残したいか否かの確認をしていった。誰か一人でも推す者があれば、取りあえず残していくことにした。
 すると9人のうち誰一人観ていない作品が20本近くもあるとともに、全員が観ていた作品がわずかに4本だけであることが判った。ちなみにその4作品とは、『シーズ・ソー・ラヴリー』『身も心も』『鬼火』『CURE』だ。1次選考で残ったのは、日本映画が49本のうち18本、外国映画が92本のうち34本だった。

 2次選考は、残った作品それぞれについて観た者でベストテン作品とすることへの支持不支持を表明してもらい、そのなかで支持者の数が不支持を上回ったものを抽出することにした。その意見交換のなかで、順位は付けないことにしようとか、厳密に10本とはせずに幅を持たせようだとか、同一監督のものは最終的には1作品に絞り込もうだとか、旧作名画と新作同時代作品は一律には扱えないことなどが確認されていった。そして、協議の結果は上記のとおりとなった。

 それぞれの部において、ベストテン作品への選出に不支持が一人もいなかったのが『ファンタスティック・プラネット』『アグネス』『パーフェクト・ブルー』『十字路』で、観た者の支持率が最も高かった作品と言える。率ではなく、支持数という点では、支持票と不支持票の差が最も大きく開いて得票したのが『パーフェクト・ブルー』次いで『ウェルカム・トゥ・サラエボ』続いて『ファンタスティック・プラネット』『四月物語』『CURE』『バウンス ko GALS』『秋津温泉』『十字路』といったところ。

 『ウェルカム・トゥ・サラエボ』は、シネマサンライズの上映作品で「同時代の衝撃!」「久しぶりに観ててゾクゾクした」「音楽と映像の組み合わせによる引き出しの上手さ」といった支持を集める一方で、同じ主催者による『Go Now』の上映とのなかで、同一監督作品としては『Go Now』のほうが好きだとの声もあった。
 『ファンタスティック・プラネット』『アグネス』は、共に県立美術館の上映。それぞれ“アニメーション・トリップ”“北欧映画祭”と題された企画上映プログラムのなかからで、前者は「発想の豊かさで先が読めない作品で、鮮度を全く失っていない」点が支持され、後者は「時代と男女差別が浮き彫りにされた力作」と評された。

 『ガタカ』『フル・モンティ』『スリング・ブレイド』『ブレイブ』はムービージャンキー。「美術的にも未来世界の構築が素晴らしく、映像の構図も秀逸」「基本的に人間性とか人間の可能性を信じている作り手の姿勢に好感」といった支持を集めた『ガタカ』には「遺伝子を題材にした'90年代の『太陽がいっぱい』だ」とか、「リリシズムで語られていた嘗てのSF世界が再現されたように感じた」といった声が寄せられた。『ハムレット』『ブラス』とともに昨年のオフシアター上映の動員ベスト3と目される『フル・モンティ』には「脚本が素晴らしく無駄なところがない」「大衆に支持されるバランス感覚が素晴らしい」「音楽の使い方が秀逸」「悲しさのなかに楽しさを発見した作品」との声。 『ミクロコスモス』はシネマLTGがムービージャンキーと共催で上映した驚異のドキュメンタリー。「技術の卓抜さと観たことのない世界に圧倒された」「CG全盛の時代にCGを使わずにファンタジックな世界を構築」との賛辞が寄せられた。

 日本映画の『パーフェクト・ブルー』『四月物語』の上映はムービージャンキー。共に高い支持を集めたが、特に前者には「現実と妄想の構成の見事さ」「サスペンスとスリルの加速度」といった点が評価され、「ストーカーにある現代性」や「アイドル世界の裏幕のリアリティ」に「実写作品としても観てみたい脚本」との声や「チープな作りの割に興奮した」との感想が寄せられた。
 『CURE』『バウンス ko GALS』『身も心も』は高知シネマフェスティバル'98の上映作品から。「見慣れた映画の文体よりも伝統的な演劇スタイルが濃厚なところがやけに新鮮だった」との『十字路』は県立美術館の上映。『秋津温泉』『笛吹川』は名作邦画の貴重な再上映を意欲的におこなう小夏の映画会の上映作品だ。

 集約意見として選に残すことには、残念ながら不支持のほうが多かったものの、他方で熱烈な支持を獲得した4本の日本映画と14本の外国映画については、以下に付記してみる。 日本映画では「劇映画としてのリズムが感じられない」「女性特有のナルシズムが鼻につく」と散々だった一方で「主人公の女の子の星空を偲ばせる屋根のシーンが忘れがたい」とのこだわりを得た『萌の朱雀』、「オムニバス形式としては破綻しているが、別離とねじ式のエピソードが捨てがたい」「主人公の浮遊する感覚が良かった」との『ねじ式』、「ヤクザ映画ながらものきめの細かい人間観察が期待されたほどのものではなかった」けれども「原田芳雄のしゃがんだシューティング・ポーズのシーンが絶品」との支持を得た『鬼火』、「公務員の問題が一際注目された今年にあって作品と上映の持つ意義は極めて高かった」との『われ一粒の麦なれ
ど』。

 外国映画では「貧しい農家の日常にリアリティが溢れ、本当の幸せについて教えてくれた」との『クリスマスに雪が降るの』。「薄っぺらい映画」とされた一方で「ニール・キャサディの転落していくさまがよく描かれていた」との『死にたいほどの夜』。「気分が悪くなる映画」「何の取り柄もない駄作」とまで評される一方で「一見した過激さよりも基本的な演出力やカッティングの絶妙さに目を見張った」「残酷さを無邪気に描く監督の力量を認めざるを得ない凄さ」との支持を得た『ツイン・タウン』。「映画に対する愛情が感じられず『それいけ、スマート』の足元にも及ばない」「下ネタギャグの泥臭い下品さが嫌」と言われながらも「とことんふざけているところが凄い」「マイク・マイヤーズの才能全開」とも評された『オースティン・パワーズ』。「一人の女性の内面を二人の役者で描いた企画性の勝利」との『ノーマ・ジーンとマリリン』。「マイク・リーの他の作品と比べて数段落ちる」とされながらも「キャラクター造形の魅力が絶妙」との『キャリア・ガールズ』。「久しぶりに血湧き肉躍る手応え」「大河ドラマとしてのスケールの大きさに感服」との『マイケル・コリンズ』。「構成には欠陥を感じるが、それを上回るスピードと迫力」「劇画的魅力」が好まれた『ブレード/刀』。「所在の判らない恐怖心が湧く不思議な映画」との『エピデミック』。「何ともチープで安直な作りの映画」のように見えながら「ドラマのなかに純粋な精神が窺える」し、「どう考えても納得のいかないストーリー展開を強引に納得させる力量に感服」との『肉体の約束』。「構えの大きさに見合う感情の発露が映画にない」「描きたかったものと異なる仕上がりとの印象を受け、作り手の不誠実さを感じ、腹立たしさを覚えた」との一方で「'70年代的感覚を堪能させてくれた新発見の映画を捨て置くわけにはいかない」ともされた『破戒』。「映画史に残る傑作で旧作と言えど、外せない」との『快楽』。「ミュージカルとして全然楽しめない」「音楽性の貧しさにがっかりした」「ウッディ・アレンの自己陶酔に留まっている」と言われながらも「題材から客が予想する以上の映像を見せてくれた」「アレンがグルーチョの真似をするだけでも凄い」との『世界中がアイ・ラブ・ユー』。「日本映画の古き良き伝統に通じる上質な人間世界の情感を中国映画に発見して新鮮だった」との『變臉−この櫂に手をそえて−』といったところであった。

'99. 1.29. 機関紙「ぱん・ふぉーかす」第113号


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