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ヤマさんの公表雑文帖

ホール事業としての映画上映
 「芸術情報 アートエクスプレス」第6号('97.12.25.)掲載
 [発行:(社) 全国公立文化施設協会・芸術情報プラザ]

 近年、市民ホールの建設ラッシュが続くとともにホールの活用、特に自主事業の積極的な展開が求められるようになっている。その際、中心になっているのは、まずはクラシックのコンサート、次に演劇舞踏などの舞台芸術であるが、一部では映画上映に積極的に取り組むホールが現われ始めた。
 神戸アートビレッジセンターは、ホールのほかにギャラリーもあり、KAVCシアターという専用スペースも持つ総合的なアーツセンターとして設立されているようなので、愛知芸術文化センターなどとともに別格だという気がするが、滋賀県水口町の碧水ホールなどは、シネクラブや自主上映活動に携わる者たちの上映会かと見間違うほどに個性的で企画性に富んだ上映会を実施している。美術館では、もう少し早くから川崎市民ミュージアムや高知県立美術館、高松市美術館、横浜美術館などがアートとしての映画上映に取り組んでいるが、ホールが自らの主催事業として映画の上映に取り組み始めたのは、文化庁と東京国立近代美術館フィルムセンターが一九八九年度から実施している優秀映画鑑賞推進事業の募集に共同主催者として応じたものを除いて、ごく最近のことではないかと思う。けれども、そのプログラムたるや、なかなか刺激的だ。私の知る限りでの今年の企画を見ても、映像ホールを有する彩の国さいたま芸術劇場が「日本映画の最前線 '97」と題して、六月から七月にかけての土日を八日も使って上映したり、八月には青森県の浪岡町中世の館が「特集・スクリーンの中の“女”シリーズ」と題して北畠まつり映画祭をおこなっているし、先に挙げた碧水ホールは、十一月末から十二月にかけての土日を六日間使って、「プライベート・ムービー〜私の眼差し、私の記憶〜」と題する企画上映をおこなう。

 一九九四年に「地域文化の振興に関する調査研究会」(木村尚三郎委員長)がまとめた報告書によれば、地方公共団体の芸術文化の振興ニーズを調査したところ、文化行政のなかで今後充実させたい分野に対する回答は、?音楽、?舞台芸術、?伝統芸能、?文化財、?美術、の順で、映像分野は最低位のくちであった。それにもかかわらず、文化行政の現場であるホールや美術館では映画に対して強い関心を寄せ始めている。これは私のように、地域でホールを借り上げて映画上映をおこなう自主上映活動に携わってきた者には、非常に興味深いことだ。いわゆる芸術文化助成財団として協議会を構成しているところが、現在二十三財団あるが、対象分野として映画を主要分野にしているものは、皆無である。わが国では、映画は長らく娯楽や興行の側面に、あまりにも偏った見られ方しかされてこなかったからであろう。しかし、第七芸術という呼称もあるように、映画というものは、実に創造的で、総合的な時間芸術なのである。そして、少し考えてみれば、ホールが自主事業として映画上映に積極的に取り組むことには、大きな意義とメリットがあることが判ってくる。

 まず第一に、あるかないかで言えば、今や小さな市や町には、市民ホールや町民会館はあっても、映画館がなくなっている。それは、かなりの人口集積がないと、興行としての映画館が存続できなくなったからだ。そして、かつて映画館では、興行的な成功作の合間にアート系の作品を上映することが決して珍しくはなかったが、今では、一般興行館とミニシアターとに住み分けがなされ、映画館の残っているところでもミニシアターはないのが当たり前である。より良い映画を求める住民ニーズに応えられる地域が、ほとんどないのである。映画が本質的にもつ表現としての素晴らしさを味わう、スクリーンでの鑑賞機会がはじめから奪われているのは、まことに貧しい状況だというほかない。
 次に、ホールの自主事業として考えた場合、映画上映はコンサートや舞台芸術と違って生身の人間を扱わないから、経費も手間もかからない。だからこそ、小さな団体や個人が余暇に自主上映という形での鑑賞機会提供活動を続けることが、全く不可能ではないのである。
 三番目には、どのような作品を組み合わせて上映するかということによって、わりあい簡単にさまざまな切り口を提起することができる。散発的にコンサートや舞台芸術の公演をおこなっても、なかなかホール自身の個性を表現し、伝えることには結びつかない。特にそれらの大半は、中央から供給されるものの買取り公演であることが多く、本来の意味で自主事業と言えるようなプロデュース公演は、一部の先進ホールを除いて、まだまだ高嶺の花だというのが現状ではなかろうか。この場合、本来の意味での自主事業という面で最も重要なのは、主催者であるホールの独自の企画だという個性の主張ができているかどうかという点だ。いわゆる企画力である。映画上映の場合、そのプログラムづくりは、ある程度の配慮と調整をおこなえば、主催者の側でかなり自由におこなえる。企画力を養う演習という面でも、映画というものは相当に便利なものなのだ。なにしろ、およそ映画の世界で取り上げられないものは何もないと言っても過言ではないくらいに、題材的にも表現的にも幅が広く、多角的な表現メディアだから、ひとつの作品でも組み合わせによって、いろいろな切り口を浮かび上がらせることができる。企画の面白さというものを味わいやすいのである。

 以上の点からも、映画上映は、ホール事業として非常に魅力的なものと言えるのではなかろうか。興行との軋轢という点でも、以前とは状況が随分変わってきている。最近、少し元気を取り戻してきている部分もある映画というものに対して、文化行政の現場がもっともっと目を向けて、事業として取り組んでくれるようになるとありがたい。そのお手伝いができるような映画愛好家は、どの地域にも必ずいるし、ホール事業にそういう期待を抱いている住民も少なからずいるはずだ。そして、映画の面白さを共有し、再認識するスクリーン・ファンが少しでも増えてくることを期待している。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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