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ヤマさんの公表雑文帖

『イメージは、フランス田舎料理』
「こうち食品産業情報」No22['91.秋号]掲載[発行:高知県食品産業協議会]

 七月に所用があって東京に赴いたとき、週末の夜の渋谷で映画を観ました。作品は『シラノ・ド・ベルジュラック』。有名なデカ鼻醜男の明かせぬ恋の物語。恋愛ものの古典の一つ、エドモン・ロスタンのこの戯曲をラプノー監督が見事に映画化しています。言わば、フランスの時代劇、誰もが知っている話の予想をまるで裏切らず、予想を遥かに超える出来映えに料理するのは、名人芸以外の何物でもありません。古典に新奇の解釈や新しい味付けを加えたり、設定を現代に置き換えたりするのではなく、実直、素朴に堂々と、しかし、とても贅沢に仕上げたこの作品は、その堂々たる力強さから、しゃれたフランス料理などではなく、伝統的な田舎料理の味わいにて至福の満腹感を約束してくれます。けっして流麗ではないけれども、贅に満ちた壮麗な美術と衣装には実に見応えがありますし、また、芝居の大きすぎる嫌いのあるジェラール・ドパルデューもこういう映画では、まさにはまり役で鮮やかに見せてくれます。難しいことは考えず、古典の力とスケールや映画人の職人芸に身を任せることで、酔うことの楽しみを教えてくれるように思います。

 そんなわけで、この映画にはカップルで来ている人たちがほとんどでした。しかも、年代の層がとても幅広く、更には、定員164席の小ホールとはいえ、満員の入りだったのです。それからすれば、高知はちょっと寂しいような気がしますね。公開されるかどうかも怪しいものですし、例え上映されたとしても、幅広い年代層のカップルで満席になるとも思えません。「食」と同じように、映画の場合も人々の嗜好を作り出すのは供給する側であることを思いますと、製作サイドだけではなく、上映のほうにも大きな責任があるようです。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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