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ヤマさんの公表雑文帖

高知新聞「第179回市民映画会 見どころ解説」

'16. 6.15.
健気に生き抜く少年たち
『あの日の声を探して』(The Search) 監督 ミシェル・アザナヴィシウス
『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』(Boychoir) 監督 フランソワ・ジラール
掲載[発行:高知新聞社]

 今回は、邦題にいずれも「声」の字が入っている作品が並んだが、声そのものが主題となっているのではなくて、両作ともに、過酷な境遇のもと厳しい環境のなかで健気に苛烈に生き抜く少年の姿を描く作品だったように思う。

 アメリカ映画『ボーイ・ソプラノ』のステット(ギャレット・ウェアリング)はアル中気味のシングルマザーと暮らしているなか事故で母親を亡くすプアホワイトの少年。ヨーロッパ映画『あの日の声を探して』のチェチェンに暮らすハジ(アブドゥル・カリム・マムツィエフ)は、目の前で両親をロシア兵に殺されたショックで声を失ってしまう少年だ。子どもがいついかなる境遇のもとに生まれるかはまったくの運次第であるのと同様に、いかなる才に恵まれ、いかなる人々と出会うのかも運命の手にゆだねられていることなのかもしれない。

 奇しくも両作ともに、少年の人生に大きな影響を及ぼす役どころで、往年の映画ファンには懐かしい女優が出演しているところが嬉しい。前者においては『シェルタリング・スカイ』['90]のデブラ・ウィンガーが、少年の歌の才能を見抜いて彼を国立少年合唱団に導く扉を開く。後者においては『アメリカン・ビューティ』['99]のアネット・ベニングが、難民を支援している国際赤十字の現地責任者を演じている。

 また、とりわけ風景の切り取りが美しく印象深い『ボーイ・ソプラノ』(撮影監督:デヴィッド・フランコ)と臨場感あふれる手持ちカメラによる『あの日の声を探して』(撮影監督:ギョーム・シフマン)という、カメラの対照にも着目してもらいたい。

 孤児となった少年が、吸収力と柔軟さを備えた子どもならではの“弱いがゆえの強靭さ”を発揮して、いろいろな人との出会いのなかで人生を切り開いていくという物語は、かつての日本映画にはよく観られたもののように思うけれども、最近ではとんとお目にかからなくなった気がする。

 また、『あの日の声を探して』のほうには、もはや少年でない19歳のコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)がこうむる受難も併せて描かれているが、ロシアの軍隊組織に強制入隊させられ、暴力まみれの日々を生き延びるうえで余儀なくされるものの凄惨さが、容赦なく描き出される。「テロとの戦い」を名目にチェチェンで17年前に何が行われていたかを垣間見ることは、今の時代に生きる者にとって、とても大事なことだ。アカデミー賞5冠に輝いた『アーティスト』['11]の監督ミシェル・アザナヴィシウスが製作/脚本/編集も併せて担った渾身作を是非ご覧いただきたい。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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