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ヤマさんの公表雑文帖

高知新聞「第175回市民映画会 見どころ解説“人生の軌跡が描く深み”」
'15. 1.14.
<『バルフィ!人生に唄えば』(Barfi!) 監督 アヌラーグ・バス 『8月の家族たち』(August:Osage County) 監督 ジョン・ウェルズ>掲載[発行:高知新聞社]

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 今回は、いずれも老夫婦の迎えた終期から彼らの人生を描いて、感触も味わいも全く対照的な作品が並んだ。直接的に描かれた部分に加えて偲ばれる「家族や夫婦の積年の関係性」に思いのほか驚きと深みがあって、とても刺激的だ。
 インド映画『バルフィ!人生に唄えば』は、歌って踊ってのいわゆるマサラムービーとは一味もふた味も違ったエンタメ風味がすばらしい作品で、さすがに歌は出てくるもののダンスシーンがほとんど登場しないことに意表を突かれた。代わりに、創生期のサイレント映画から最近作にいたるまで古今東西のエンタメ映画を思い出させてくれる場面が満載だ。映画好きに小膝を打たせつつ、いわゆるパロディとは違った独特の風変わりな不思議感で画面が展開していく妙味に感心させられる。
 ハンサムで愛嬌に富んだ聾唖者バルフィ(ランビール・カプール)と繊細な自閉症女性ジルミル(ミス・ワールド2000のプリヤンカ・チョープラー)という障害者同士のラブストーリーを、今までに観たことのないようなエンタメ感で仕上げていて、大いに驚かされた。運命的な出会いによって惹かれ合っていた美女シュルティ(イリヤーナー・デクルーズ)と自分につきまとっていたジルミルの位置がバルフィのなかで入れ替わったのがいつなのか、ぜひ大画面で確かめていただきたい。
 アメリカ映画『8月の家族たち』は、癌を病み元々の攻撃性が薬中毒で激烈になっている老妻バイオレット(メリル・ストリープ)を置いて家出するアルコール依存症の詩人、ベバリー(サム・シェパード)の夫婦に訪れる終末を描いて、なんとも激烈で重たい後味を残す家族物語だ。「人生はとても長い T.S.エリオット」とのつぶやきが最後に改めて効いてくる仕掛けになっていて、西土佐で記録した約41℃をも上回る42℃のオクラホマ:オーセイジ郡を示す原題は、灼かれるような人生の不快指数の高さを指していたような気がする。
 とにかく長女バーバラを演じたジュリア・ロバーツとメリルの鬼気迫る競演がすさまじくて圧倒される。名匠ベルイマン監督の『秋のソナタ』以来とも言えるような母娘による口撃バトルは、じつに観応えがあるのだが、バイオレットの激しい口撃の原因が薬の副作用ばかりではないことが判明してくるにつれ、「女の人生、ほんと遣り切れない」という感じになってくる。それらがどこに端を発して生じているのかを、母娘や姉妹の間にある相克と葛藤の物語のなかで見届けていただきたい。
 そして、バイオレットの義弟チャールズ(クリス・クーパー)の見せる度量のなかにこそ、頑なな正当性の主張では果たせない解決の糸口があることを感じ取っていただきたい。それは、単に家族間の積年の争いや屈託についてのみ言えるものではないこととも合わせて。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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