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ヤマさんの公表雑文帖

高知新聞「第174回市民映画会 見どころ解説“実在女性の数奇な人生”」
'14. 9.17.
<『大統領の料理人』(Les Saveurs Du Palais) 監督 クリスチャン・ヴァンサン 『あなたを抱きしめる日まで』(Philomena) 監督 スティーヴン・フリアーズ>掲載[発行:高知新聞社]

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 今回は、いずれも不当な差別と偏見から多大な難儀を被りながらも、自らを誤魔化さずに立ち向かっていった女性の物語が並んだ。両方とも実話に基づく映画化作品なのだが、そうでもなければ、その設定すら荒唐無稽に思えるような数奇な人生に驚かされる。そして、自身の心に誠実に向かうことで掛け替えのないものを得ていた女性たちの姿に感心し、心打たれた。また、両作の映画としての趣の違いも是非味わっていただきたい。
 フランス映画の『大統領の料理人』では、男性中心の料理人の世界で、田舎のレストランのオーナーシェフから大統領のプライヴェートシェフとしてエリゼ宮に上がる女性料理人オルタンス・ラボリ(カトリーヌ・フロ)が主人公だ。現代の宮廷料理人とも言うべきメイン厨房の男性シェフからの嫌がらせを受けつつ、料理人としての自己表現を見事に果たしていたばかりか、時期を違えて南極料理人をも務めていた姿が並行して描かれる。まさに対照的とも言える調理環境のなか、変わらぬ手際のよさで闊達に繰り出してくる彼女の料理の再現の数々が最大の見どころとも言うべき作品だ。ミッテラン大統領がモデルとなった食通の大統領(ジャン・ドルメッソン)との交流の場面が素敵に描かれていた。
 イギリス映画の『あなたを抱きしめる日まで』では、10代で未婚の母となったアイルランド人の元看護婦が、修道院の一存で幼児期に養子に出された息子の消息を追って、50年後に米国まで訪ねて行く。
BBCの看板記者を降ろされても、社会面は「心が弱くて無知な人々が読むもの」などと思い上がっている元政治記者が、ベタなメロドラマ小説を愛好する元看護婦を連れて“三面記事”の取材をしていく道中になかなか味があった。
 実話に基づくとは思えないほどの数奇な展開以上に、記者のマーティン・シックススミス(スティーヴ・クーガン)と元看護婦フィロミナ・リー(ジュディ・デンチ)の人物造形が素晴らしく、ユーモアもあって、心に沁みる。二人の抱えている“喪ったものへの向かい方”の対照が絶妙だ。
 フィロミナが「赦しには大きな苦しみが伴う」と絞り出すように零した場面が痛烈で、老修道女ヒルデガード(バーバラ・ジェフォード)の歪な頑なさが効いていた。宗教的モラルにかこつけて厳しく罰しようとする修道女、同じく宗教的モラルから何とか赦しに向かおうとする元看護婦、社会正義から悪行は許すべきではないと考えるジャーナリスト。それぞれの対照が際立つ。世の中の向かっている方向がひたすら厳罰化にあるなかだから、なおさらに響いてくるものがある。そもそも罪とはいかなるものなのか。そして、罪に与えられるべきものは、罰なのか赦しなのか、根源的な問い掛けを含んでいる秀作だ。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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