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ヤマさんの公表雑文帖

高知新聞「第173回市民映画会“変革担う女性の時代”」
'14. 6.11.
<『31年目の夫婦げんか』(Hope Springs)監督 デヴィッド・フランケル&『少女は自転車にのって』(Wadjda)監督 ハイファ・アル=マンスール>掲載[発行:高知新聞社]

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今回のカップリングは、老いのなかでのアメリカ人夫婦の関係を著名なアカデミー俳優によって描いたハリウッド映画『31年目の夫婦げんか』と、十代のアラブ人少年少女を無名の子役によって描いたサウジアラビア映画『少女は自転車にのって』。全く対照的な組合せだと思ったら、あにはからんや、どちらも共に自らの意志と決意で新たな地平を拓こうとする“諦めない女の物語”だった。
 前者は、還暦を過ぎているとおぼしき妻(メリル・ストリープ)が意を決して夫(トミー・リー・ジョーンズ)の寝室を訪ね、「したいの」と切り出す場面からいきなり始まるセックスレス夫婦の物語だ。
かなり意表を突く設定と展開に目を白黒させられているうちに、夫婦問題の真実や人生の機微をしみじみと感じるようになるという驚くべき怪作だ。ひとえに、台詞にはない心情の複雑さや怖れ、悔恨、不安や希望などを見事な的確さで、ニュアンス豊かに演じてしまう両優の演技力の賜物だろう。
 互いの愛情は枯れていない夫婦の間で、いかなる状況からすれ違いが生まれ、熟年離婚寸前の危機に至ってしまったのか。そのことに思いを巡らせるなかで、他人事ではない気づきを得られる。
 『少女は自転車にのって』は、女性の置かれている社会的立場が従属的で閉塞している、イスラム世界に暮らすアラブ女性の物語だ。『31年目の夫婦げんか』の妻のようなふるまいなど恐らく想像すらできないだろう。女学校の女性校長から、歓声を聞かせることさえ肌を見せることと同じだと咎められ、独り歩きをしていると触らせろと娼婦扱いの冷やかしを掛けられる。そういうことが日常茶飯のようなのだ。乙女が自転車に乗るなどとんでもないとされる世界で、実に真っ直ぐ自分の求めるものをたゆまず追っていく少女ワジダ(ワアド・ムハンマド)の姿が爽やかだった。そして、自分で自転車を買える賞金を目指して苦手なコーランの暗誦に挑む。そんなチャレンジ精神を失わない少女に次第に惹かれていく少年の存在が効いていて、イスラム社会変革の可能性に対する作り手の希望が託されているように感じられた。
 どうやら今の時代、変革の担い手は家庭でも社会でも女性だとの観方は、世の東西、文化圏の相違を超えて共通しているらしい。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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