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ヤマさんの公表雑文帖

高知新聞「第170回市民映画会 “恋愛に通じる料理の心”」
'13. 6.19.
<『シェフ! 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜』(Comme Un Chef) 監督 ダニエル・コーエン>掲載[発行:高知新聞社]

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 料理の深みに嵌っている男たちの滑稽と難儀をコミカルに楽しく描いた85分の小品だ。とかく料理映画、しかもフレンチを題材にすると薀蓄に傾きがちになりそうなものだが、そんな頭でっかちはオシャレに除かれている。また近頃は、編集で90分以内にシェイプアップすべき作品を2時間越えにすることが半ば常態化しているので、こういう作品に出会うと「映画の何たるかが分かってるじゃないか」と嬉しくなる。
 小品に見合った軽快感が好もしく、オーソドックスなフランス料理から液体窒素を使う科学的な調理法を取り入れた先端的な“分子料理”まで、目にも鮮やかな彩りの凝った料理が次々と現れるのも楽しい。素材そのものを活かす高級日本料理と、各素材の特性を抽出し調理によって自然にはない独特な味覚を創造する高級西洋料理。高級を求める際に重視する点が本質的に違うわけだ。そんな西洋料理の究極が分子料理なのだろう。
 一般に「愛情を込めた料理」という言葉がよく使われるが、そこにいう“愛情”とは何だろうなどと思っていたことに、ひとつの回答を与えてくれた。料理に対してであれ、人に対してであれ、愛情とはすなわち真面目なひたむきさというわけだ。だが、その真面目なひたむきさが必ずしも通じ評価されるとは限らない。ベテラン有名料理人アレクサンドル・ラガルド(ジャン・レノ)も天才新人ジャッキー・ボノ(ミカエル・ユーン)も、そこに苦労する。その不確かさは料理の世界でも恋愛の世界でも同じだ。うまく伝わると飛び切りハッピーな気分になれることでも両者は共通しているということなのだろう。あまり構え込んで臨むとうまくいかない点でも両者は似ている。
 時間を重ねるなかで多くの人が見失いがちな“愛情”問題について、ラガルドとボノの出した答えは、それぞれともにその愛情に見合ったもののように感じられ、愉快な気持ちになれた。ラガルドの三ツ星維持のための守勢からの脱却と、ボノの料理への責任ある向い方のいずれにも、それに相応しい“女性との新生活の始まり”が設えられている。いかにもフレンチな映画だ。料理に関して天才的な舌と嗅覚と記憶力を備えたボノに対する「趣味の料理で、シェフの料理じゃない」といった台詞が用意されていた点も含め、作り手自身の料理への愛情が感じられた。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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