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ヤマさんの公表雑文帖

老いの人生への祝福
 『最高の人生をあなたと』(Late Bloomers) 監督 ジュリー・ガブラス
高知新聞「第168回市民映画会 “人生と自分 みつめて”」
('12. 9.17.)掲載[発行:高知新聞社]

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 老いを迎え始めると誰しも、ある種の頑なさに見舞われるとしたものだ。既に独立を果たした3人の子どもにも恵まれる夫婦生活30年を円満に過ごしてきた還暦前のメアリー(イザベラ・ロッセリーニ)とアダム(ウィリアム・ハート)。そんな2人の間にふとしたことから、2ヵ月余りの別居生活という事態が起きてしまう。その原因が、自分たちに訪れている老いへの向かい方であるところに、思いのほか現実感のある映画だ。
 自身の老いを積極的に受け入れようとしているように見える妻と、老いに抗って職場の若い仲間と新たな挑戦に取り組もうとしている夫とのズレが別居にまで高じてしまうのだ。そうなる深刻さは、その年頃を迎えた者でないと理解しにくいのかもしれないけれど、アダムより少し年嵩のリチャード(サイモン・キャロウ)が「年を取るのは勇気が要る」と零す台詞がなかなか沁みてくる作品だ。それには、終始ユーモアとコミカルさを湛えた筆致が効いていて、随所にドキリとするような生々しさも差し込みながら、決して痛々しさだけには向かわないところがいい。
 老いに抗っているように見える夫のほうがむしろ受け入れていて、夫に老いの受容を強迫することで自身にも納得させようとしていた妻のほうが実は受け入れていないことをしっかり捉えた人間観察の確かさ。両親の危機に際した3人の子どもたちの臨み方の好もしさ。そこに2人の人生への祝福が感じられる。原題の意味する“遅咲き”の花の在処を感じ取ってもらいたい。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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