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ヤマさんの公表雑文帖

ゲイを公言した75歳父
 『人生はビギナーズ』(Beginners) 監督 マイク・ミルズ
高知新聞「第168回市民映画会 “人生と自分 みつめて”」
('12. 9.17.)掲載[発行:高知新聞社]

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 第2の人生はあっても、2度目の人生を生きている人はいない。だから、いくつになっても人は、その年齢で遭遇する人生のステージの“ビギナーズ(初心者)”に他ならない。そんな思いがあらためて湧いてくるような作品だ。
 44年連れ添った妻に先立たれた父親のハル(クリストファー・プラマー)が75歳になって初めてゲイであることを公言し、新たな生き方を始める。それによって自身の存在そのものの問い直しを迫られる38歳の息子オリヴァー(ユアン・マクレガー)。その戸惑いが回想や追想を頻繁に交えた現在進行形で綴られる。そして、父を癌で亡くした喪失感のなかで見出したものが、彼自身の積年の課題に対する回答になっていた。
 恋に落ちてもステディな関係を続けられず、なぜか自分から別れを言い出さずにはいられないオリヴァー。それは、家族に対して自身を開放できない両親の元で育つなかで、彼が無意識のうちに身につけたガードなのかもしれない。そこにゲイ問題に留まらない普遍性の窺えるところが重要だ。
 両親の過去や生前の言葉の意味を思い返すなかで彼が出会うアナ(メラニー・ロラン)もまた、自殺願望を訴える父親との関わりに苦しんでいた。華やかな場での瞳の影にオリヴァーの孤独を読み取る彼女との出会いの場面が素敵だ。
 そして、これまでとは違う形で、女性との関係性を積み重ねていけるようになるプロセスになかなか味わいがあった。監督・脚本を担ったマイク・ミルズが実父から得た物語だそうだ。感謝していることだろう。


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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