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ヤマさんの公表雑文帖

史実と虚構交えた物語
 『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』(Goethe!) 監督 フィリップ・シュテルツェル
高知新聞「第167回市民映画会 見どころ解説」
('12. 6.18.)掲載[発行:高知新聞社]

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 詩人にして小説家、劇作家、自然科学者、哲学者というあたりまでなら郷土の生んだ先哲、寺田寅彦も負けていないが、加えて政治家、法律家でもあった文豪ゲーテの青年時代を描いた作品。
 十代の時分に『若きウェルテルの悩み』を読んだころ、恋愛こそが人を成長させるものなのだと吹き込まれていたような気がする。やんちゃな減らず口をたたく青年で、才気はあっても未熟で観念的だったゲーテ(アレクサンダー・フェーリング)。彼の言葉に血肉の通う内面を与えたのは、ロッテ(ミリアム・シュタイン)との甘くもツラい恋の苦悩だったという本作の筋立ては、まさしくその王道を行くものだ。
 思いのほか充実した画面に彩られていることと、ロッテの人物造形がめっぽう現代的で生き生きしているのが魅力だった。ゲーテから燃やしてくれと言われた原稿を出版社に持ち込み、実話かと問われて「実話以上の物ですわ。…文学です」と言ってほほ笑んでいた彼女の姿は、全てにおいて、まさしく彼女こそが文豪ゲーテの生みの親だったということなのだろう。
 書簡体の小説である『若きウェルテルの悩み』を踏まえて手紙という小道具を生かし、“疾風怒濤”と呼ばれた当時の文学運動の韻を踏まない革新的スタイルに言及するなど、史実と虚構を交えた物語世界の根底には、高い教養性と機知もうかがえる上質の作品だ。

'12. 6.18. 高知新聞「第167回市民映画会 見どころ解説」


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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