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ヤマさんの公表雑文帖

200年前の知見に学ぶ
 『アメイジング・グレイス』(Amazing Grace) 監督 マイケル・アプテッド
高知新聞「第165回市民映画会 見どころ解説」('11. 9. 5.)掲載[発行:高知新聞社]

    作品タイトルとなっている讃美歌は、キリスト者でなくても知らない人はいないと思えるほどによく知られた歌だ。だが、その詞を書いた牧師と彼を師と仰いだ若き政治家によって、この映画に描かれているような逸話が史実として残されていることまでは、知らない者の方が私を含めて大半だろう。数ある賛美歌の中でも、この歌がなぜに飛び抜けて名高く、数多くの人々の心を打ち、歌い継がれているのかがよく分かる作品だった。
 敬虔なる信仰者にして資産家であり、理想の現実化のために行動する若き政治家ウィルバーフォース(ヨアン・グリフィズ)が立ち向かった200年前の難題は奴隷貿易だ。それが決して好ましいことだとは思っていなくても、廃止すると経済が立ち行かなくなることへの懸念や既得権益の壁によって止められずに、英国議会は議論をむなしく費やしてばかりいた。その姿に、現時点だと原子力発電のことを思わぬ観客はいないような気がする。
 ♪見えなかった目も 今は開かれた♪ との歌詞によって触発されるものが今、奴隷貿易から原発問題に変わっていても、先人たちが20年という長い時間を掛けながらも諦めずに廃止法案可決へと導いた史実を忘れずに立ち向かう必要があると思わせてくれるところがタイムリーな映画だ。
 史実に基づくとはいえ映画化作品だから、少なからぬ脚色や美化はあるのだが、過剰には施さない誠実さの中で、まさしく勉強というに値する知識や知見を、娯楽的に楽しめる親しみやすさによって与えてくれる。そういう意味で、映画という表現の忘れてはならない大事な価値の一つを果たしている作品でもある。

'11. 9. 5. 高知新聞「第165回市民映画会 見どころ解説」


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