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ヤマさんの公表雑文帖

才気輝く主婦の成長物語
 『しあわせの雨傘』(Potiche) 監督 フランソワ・オゾン
高知新聞「第164回市民映画会 見どころ解説」('11. 6.20.)掲載[発行:高知新聞社]

   “飾り壷”と字幕で訳されていた原題の意味は、美しいけれども実用性がないということで、ブルジョワマダムを揶揄するものらしい。娘のジョエル(ジュディット・ゴドレーシュ)からさえそう言われ、母とは同じになりたくないなどと言われていた雨傘工場のオーナー夫人スザンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、心臓発作に見舞われた夫に代わって主婦から社長業に転身し、大いなる脱皮を遂げる物語だ。時代設定は1977年。個人主義の確立した国というイメージの強いフランスなのに、同時期の日本以上に感じられる男権優位の社会状況に驚かされるが、小難しさは全くなく、軽妙な語り口と色鮮やかでファッショナブルな画面が楽しい快作だ。
 映画の最初と最後で、赤と青にジャージの色が入れ替わるスザンヌの変化が、社長業で夫よりも才覚を発揮して得た自信によるものだけではないように描かれているところがミソで、夫ロベール(ファブリス・ルキーニ)と昔なじみのババン市長(ジェラール・ドパルデュー)を翻弄しつつ、生き生きと輝いていく様子が楽しい。ついついニヤニヤしながら見てしまう、才気と皮肉の効いた作品で、ドヌーヴの貫禄が見事だ。
 ジョエルの人物像に少々無理があるのが難点だが、スザンヌが夫や昔なじみに語る打ち明け話のどこまでが事実で、何が真実だと受け止めるかによって、見る側の女性観や人間観がうかがえるようなところのある作品なので、親しい人と感想を交わし合ってみると、さらに楽しいはず。それにしても、高をくくっていた女性の言葉一つに我を失ってしまう男たちの何とたわいないことか。だが、それこそが35年前も今も変わらぬ真実のような気がした。


'11. 6.20. 高知新聞「第164回市民映画会 見どころ解説」


無断転載禁止 掲載:アーク編集室

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