Arts Calendar/Art's Report site/《YAMAsan no Live_bibouroku》 5.10.


vol.240

'15. 5.10.

イヴリー・ギトリス ヴァイオリン・リサイタル
会場:高知市文化プラザかるぽーと大ホール 

 現役最高齢のヴァイオリニストの92歳のライヴ・パフォーマンスとはいかなるものか目撃したくて出向いた。スクロール部分を載せる支柱を構えているのは高齢ゆえだろうが初めて観た代物で大いに目を惹き、演奏も思った以上に興味深く、なかなか刺激的なリサイタルだった。
 会場で思いがけなくも久しぶりに会った中学時分のバスケット部の同窓生と休憩時間に話していて思ったことなのだが、当時ときどき彼とは囲碁を打ってたものだから、コンサート会場に来る直前まで観ていたNHK杯囲碁トーナメントの話をすると「まだ観てないけど、今日の解説は趙治勲だったよね、彼の解説は面白いよな」と言うのを聞いて、「それだ!」と思ったのだった。
 プログラムの1曲目モーツァルト作曲『ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第28番ホ短調 K.304』で妙な流れ方をするボウイングが時折みられることや微妙に不安定な音が出てくることに弓を抑える筋力が落ちているからだろうかとか、2曲目のベートーヴェン作曲『ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」』を引き始めたかと思うと矢庭に中断して支柱を置き直してやり直し始めるなどというプロの演奏家では観たことのないことを何の衒いもなく行ったり、何とも頼りないピチカートを淡々と繰り返したりしているのに、音楽全体としては不思議な妙味があって面白く感じられたのだった。
 今日のNHK杯囲碁トーナメントは、藤沢秀行名誉棋聖の孫娘の女流本因坊藤沢里菜の出ている1回戦だったのだが、「里菜ちゃん、頭真っ白くなったね、こりゃもうメタメタだ」などと言いながら「あ、ボク見落としていた、そーか」といろいろな予想図を次々に置いて解説の相方に「貴女はどこに打つ?」とか「ダメか」など、実に奔放に口走りつつ、囲碁というものの変化の妙味や手順の重要性を伝えることにおける明快さには比類がなかった。この奔放さは、数多の棋士のなかでも破格の実績を持っていればこそ許されるものであるだけではなく、やはりただの奔放さとは違うということなのだろう。
 休憩後の演奏は、前半プログラムの演奏でやけに綺麗な音を響かせているように感じられたピアノのヴァハン・マルディロシアンの独奏によるモーツァルト作曲『幻想曲ハ短調 K.475』で、なかなか素敵だった。リーフレットに(曲目はステージで発表予定)と記されていた小品プログラムは、ブラームスの「スケルツォ」から始まり、クライスラーの「愛の悲しみ」を立ったままで演奏した後、サプライズゲストの木野雅之を迎えてバルトークの「44の二重奏曲」から幾つか演奏し、僕の好きな「浜辺の歌」を聴かせてくれたのが嬉しかったが、最も気に入ったのは最後に演奏された『シシリエンヌ』だった。18世紀のウィーンに生まれた盲目の女性作曲家マリア・テレジア・フォン・パラディスの作品だとの紹介があった。
 アンコールに応えて1曲だけと『タイスの瞑想曲』を演奏したときには午後5時を回っていたから、本来の予定時刻をかなりオーバーしていたのではないだろうか。思えば、開場時刻を越してもリハーサルを続け、数百人の客に長蛇の列を強いることも気にせず、予想通り開演時刻も遅らせてしまう我が道を行く在り様は、ある種、天真爛漫にも通じてもいるステージぶりだったような気がする。


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