Arts Calendar/Art's Report site/《YAMAsan no Live_bibouroku》5.9.


vol.218

'14.5.9.

イッツフォーリーズ公演『見上げてごらん夜の星を─ミュージカルこそわが人生─』(高知市民劇場第308回例会)
会場:高知市文化プラザかるぽーと

 僕の観た2階席からではなく、1階席からだと、実際に心もち見上げながら観賞することの多くなるような役者の縦の動きが豊富になる舞台設計と符合するように、ステージ構成そのものが、物語の時間構成からしても、モチーフそのものからしても、実に立体的に組み立てられていたように思う。

 初演が'60年7月だとか言っていた『見上げてごらん夜の星を』の再演と、以来31年間和製ミュージカルの創作に邁進してきた亡き作曲家いずみたくを敬愛し偲ぶ想いとが立体的に交錯していたが、後者の部分が大谷美智浩による潤色であり、─ミュージカルこそわが人生─とのサブタイトルに込められたものだったような気がする。

 とはいえ、オープニングで歌われていた♪ともだち♪にしろ、本作のテーマ曲である♪見上げてごらん夜の星を♪にしろ、僕にとっては、いずみたくよりも亡き坂本九の癖のある独特の節回しの歌としての印象が強く、中学の時分に愛好していた懐メロとの思いが強い。

 初演時、僕は2歳ということになるから、同時代とは言い難いし、当時の定時制高校に集う若者たちと時代的接点があるわけでもないのに、無性に懐かしい気分を誘われた。驚いたのは、本作で繰り広げられていた愛国心論議だ。オリジナルでもこのとおりだったのだろうか。もしそうなら、原作・作詞との永六輔の立ち位置のバランスの良さは大したものだと思う。
 それにしても、いずみたくの楽曲の持ついかにも戦後日本的な明るさと健全さは、しっとりした歌でもコミカルな歌でも核心部分として揺るぎがなく、今の時代には醸し出せない時代的気分だと改めて思った。ミュージカルナンバーそのものは、主題歌以外は覚えのないものばかりだったが、水谷圭見<ユミコ>の歌う♪夜空の星が♪がとても素敵だった。でも、最も楽しかったのは♪ユミコ♪で、定時制高校に通う6人の男の子たちのマドンナとなった彼女に捧げられる歌で連呼される名前が妻と同じで、聴きながら何だか笑みが込み上げてきて仕方がなかった。

 会場で渡されたリーフレットに掲載されていた、初演時の舞台美術を担当したやなせたかしの思い出によれば、ヒットミュージカルとして定着させたのが坂本九と九重祐三子だったようで、それでユミコと坂本(大塚庸介)の名が残っているのかと納得したが、再聴してみたくてユーチューブを探したが、見つからなかった。

 フィナーレの後のデザートとして添えられていた、いずみたくヒットナンバーメドレーは、舞台劇としての本作の構成上は余り適切ではないように感じられたが、僕のように彼の曲をほぼ同時代で聴いてきている者にとっては、格別の時間だった。♪恋の季節、夜明けのスキャット、夜明けのうた、いいじゃないの幸せならば、ゲゲゲの鬼太郎、ベッドで煙草を吸わないで、チョコレートは明治、いい湯だな、世界は二人のために、女一人、太陽がくれた季節、希望♪の全曲について、ほぼ歌えるくらいに覚えていた。最後に置かれていた歌が♪希望♪だったことについても、今の時代の者が偲ぶ半世紀前と今との違いの最も顕著なものとしての納得感があった。経済的にはまだ豊かとは言えなかった時代に、あのように明るく前向きで軽薄ではない歌がなぜ生まれて来たのかについて、今の作り手たちが感じていることなのだろう。


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