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□WADA Map vol.141


Live

2005年12月16日
東京・南青山BODY&SOUL

2005年12月18日
東京・武蔵野スウィングホール

■25th scandeinvian connection "At Ease Trio"
 ■ ラーシュ・ヤンソン(Pf)
 ■ アンダーシュ・シェルベリ(Drs)
 ■ 森泰人(B)


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今回のツアーは、まずBODY & SOULでのライブを聴いた。いつものメンバー、いつもの店、いつもの席、だったにも関わらず、トリオの大きさに改めて圧倒されてしまった。3人の出す音のちから強さが激流のように押し寄せて、渦に飲み込まれそうな勢いが恐いくらいだった。確かに勢いづく強い曲もあったが、とても美しいバラードも多く演奏されたのに。音に翻弄され、酔うという感じだった。

そんな中でじっくりと聴き入ったのは"Marionette"。リクエストが多いとのことで演奏された。そういえば、しばらくライブでは聴いていなかった。新作を待望しながらも、どうしても戻ってみたい曲がある。この"Marionette"あたりでラーシュを知ったという人は多く、心に残る曲のひとつなのだろう。ラーシュが"Marionette"と口にした瞬間に、しっとりと空気が落ち着いた。静かでシンプルだけど、優しく、少し物哀しさもある。みんな、この曲を聴きながらどんなことを思うのだろう。森さんがベースの弦に手を置き音を消すのと、拍手をするまでの刹那。よい夢から醒めたような表情で溜め息がもれる気配がする。

人が生まれて産声をあげる前、まずこの世の空気をひとつ吸う。その空気は肺の細胞の一番奥に届けられ、いくつもの呼吸をしても生涯からだから出ていくことはないのだそうだ。初めて聴いたラーシュのピアノ・森さんのベース・・・いつまでも、からだのどこかにとどまっているのだと思う。かじかんだ指先に暖かさが染み込んでいくような穏やかな温もりを感じる"Marionette"。でも、この後ライブは、この冬の寒波とシンクロしたかのように激しさを増していったように思う。

低気圧に巻き込まれたようなライブの2日後、ほぼ同じプログラムを武蔵野スウィングホールで聴く。ライブハウスのドアを開けるのとは、少し違うドキドキを抱いてエレベーターを登る。

小ホールでのライブ。違いといえばやはり音の通り、響きであるけれど、視覚にもまた大きな違いがあると思う。ライブハウスでは、ライブを盛り上げる雰囲気造りの工夫がある。グラスの触れあう音や話す声、笑い声。内装にも店の個性といつもそこで演奏される曲ジャンルやカラーを感じ取ることができる。そんな雰囲気や視覚になにも拠りどころがないホールという環境。開演前のお客さんも心なしかお行儀がいい。早めに席につきおしゃべりも少なめ・小さめ(客層も違いますが)。

その中へ、ミュージシャン登場。姿を見ての拍手のタイミングも少し違う。ラーシュの笑顔も、モーツァルトでも弾き始めてしまいそう。森さんも何だかフォーマルな表情で、それが「一昨日とは違う?」とぴりっとした空気。でも、この人はいつでも変わらぬリラックスした笑顔でドラムに向かうアンダーシュ・シェルベリ。

小ホールの視覚を奪う感覚は音楽が耳に届くとより強くなる。私の前の何列かの人たちの頭、ステージの3人。それだけしか見えてないのに、見えないせいか、目を開けているのがつらいほど、様々なイメージが浮かんでくる。寝てるみたいに見えちゃって失礼かなぁとは思いつつ、目を閉じる。特に何が見えるのではない。今まで読んだ小説を勝手に映像化してたり、とりとめのない夢の断片がコラージュされていたり。逆にいえば、3人はそれぞれの存在を透明にして、音楽という目に見えないものになっていたのだろうか。

ラーシュの「エア・ギター」or「エア・フィッシング」の熱演から始まった"Fisherman"。いくら聴いても楽譜上の難解さがわからない私には、ラーシュとアンダーシュの丁々発止がただただ楽しい"Give me 5"(5拍子を!)。楽器の、本来の部分ではないところを3人が叩き、擦って始まる"Ch.Latour"。

楽しいのだけれど、どの曲も美しい。ステージと客席の決して渡せぬ橋のない場所に、きょうは滔々と流れる川がある。BODY & SOULでは、この流れが渦潮にもなり、激流に龍が暴れたりもしたのだけど。渡ることはできないけれど、高欄に凭れて柔らかな流れを眺めていられる気分は、ホールだからこそ。

さらさらと躬らリズムを刻むような透明な流れは、ラーシュのピアノ。水面を輝かせる穏やかな冬の陽のような森さんのベースに、時折、飛び跳ねてみたりカラフルな姿を見せたりする鯉みたいなアンダーシュのドラム。寒い時に暖かくしてワザワザ冷たいものを楽しむのが冬の贅沢。暖かみあるホールでゆったりと座って川の流れを眺めるなんて、最高に贅沢な時間だった。

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2005年12月
東京にて

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無断転載禁止 掲載:アーク編集室