Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》燕子花図

vol.139


■特別展 燕子花図 −光琳 元禄の偉才−■



■2005年10月8日〜11月6日■
■東京・青山「根津美術館」■



私の生涯いちばん好きな「絵」である尾形光琳の『燕子花図』。はじめて見たのは小学生。まだ改築前の美術館の作品保護という意味ではない薄暗い展示室で、石の床には打ち水がしてあったような気がする。暗い場所でみたことも効果が大きかったと思う。迫力とカッコよさに圧倒された。絵の前から動けないという体験は、その時と京都・建仁寺で俵屋宗達の『風神雷神図屏風』の本物をやはり暗い部屋で見た時。「見るべき絵」というのはヨーロッパの印象派とかそのあたりのものだと思っていたのが、180度転換。「印象派なんてつまんねーっ」となって、琳派を中心にした日本画好きな子供になってしまった。以来、5月のカキツバタが咲く時季には根津美術館に行くのが年中行事になった。

ここ2,3年、展示をお知らせを見ないと思っていたら、修復をしていたそうだ。それが完成し、季節外れの秋に展示。『燕子花図』だけでなく、いろんな美術館から光琳の作品(絵画・工芸)を集めている。とは言っても、ほかの作品も今までに見たものばかりだから、『燕子花図』に直行。どんなに工夫を懲らしていても、金屏風には電気のちからは合わない。足もとがおぼつかないほどの暗さであっても、一本のロウソク・行灯の灯りで見なければ。『燕子花図』めがけて突進した割にはフェードアウト気味。

人が少なかったこともあって、いろんな角度から眺めてみる。斜めから、屏風畳みになっている片側だけを視界のなかに重ねて見る。水の中に点在するように描かれているカキツバタの群落が、こうして見るとモコモコと固まって凝縮。そして、この角度でも、別のリズムがきちんとあってメリハリが利いている。たとえば、絵羽模様の着物を広げて見た時と、帯を選んで着た時とでまったく違う印象が生まれ、仕掛けが見えてくるように。奥行きや空間を無視した見方だと思うが、正面から見たときに感じる水の匂いは薄れて、強い花の香りと生命力の熱さを感じる(カキツバタの香りがわからなくて、感じたのはクチナシだったけど)。

子供のころ住んでいた家には小さな池があり、その周りにはカキツバタ・アヤメが植えられて、五月の節句ころには咲いていたように思う。池の後ろには築山があり、狭いながらもランダムで上下の動きを生み出していた。この庭を作った人は『燕子花図』を真似たと思う。成功とは言いがたいけど。光琳は金と群青と緑青だけで何故ここまでの景色が描けるのか、しかも花のアウトラインだけで何にも描き込んでいないのに。おそらく、行灯や自然光で見たならば、皐月の陽光と眩しい水面の輝きも感じられるのではないかと思う。

改築以前からある正面左側には、二階にも展示室がある(ちと狭いが)。昔は、ここから手すり越しに一階の展示を見下ろせた。そうして見た『燕子花図』もまた素晴らしく、何時間でもあの薄暗い美術館で過ごせたものだった。


2005年10月22日

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