Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》TRIO'

vol.116


TRIO'



2004年1月15日
東京・六本木Alfie

TRIO'
 市原康(Drs)
 福田重男(Pf)
 森泰人(B)

ライブハウスには珍しく、窓がある。六本木のビルの5階のフレームに、飛行機のライトが星が瞬くように上昇して行くのが見える。店内の照明が少し暗くなり、大きな鏡に小さなライトやキャンドルの灯が映り込む。ランドマークは何も入り込まない、シンプルな東京の夜景に溶け込むような店内。演奏が始まる前の一瞬の間にライブハウスの心意気が見えるような気がする。

ライブでは初めて聴く福田さんのピアノの瑕のない音に、表面的にはクールとかアグレッシブと感じるのに、それよりも大きな安心感が音の底にある。ぐいぐいと引っ張っていくけれど、必ず背中に手を添えてフォローもしっかりしてくれている確信がある。その絶妙のバランスがきれい。

この日のライブの前に、レコーディングを終え、だから初顔合わせの森さんとも「探り合い」の段階では既になく、組んだ円陣に違和感がない。トリオがきれいな真円を描いている。「TRIO'のダッシュはトリオっ、という感じの"っ"みたいなもの」という名だそうだが、私はさらに"THE"をこのトリオにつけたいと思う。

直前にレコーディングされた曲、スタンダードやライブ用に持ち寄った曲と、多彩。どれもがとても贅沢な演奏だ。聴き慣れたボサノバの"Ginji"。柔らかなボーカルがまず頭に流れてしまう印象が強いのに、TRIO'の、それを覆してしまうキリリ感は、まさに真冬に聴くにふさわしい1曲。

2ndになり、演奏はより鞣らかになる。夜空の星が最高に美しい季節、冬の冷たさには、火の明るさ・暖かさが対になり、さらに人肌の温かさ、焦がれる春へのふんわりとした浮遊感。そんな冬の夜の印象がすべて詰め込まれたようなライブ。音だけに包まれるぬくぬくとした幸せ。厚みのある柔らかな市原さんのドラムは毛皮のようであり、張りつめたドラムの表面を叩き、撫でる音の確かさは極上のグラス。円やかなくちあたりと、指で弾いた時の澄んだ響きは長く空気を震わせつつ、漂う。休むことなく生まれるドラムの波は積み重なり、いくつものガラスの城を築き、キャンドルの火がいくつもの十字星を輝かせる。

先頃、カザフスタンへ行った森さんの「コスマンカラシータ」。黒い瞳という意味のカザフスタンの民謡からの曲。ヨーロッパとアジアの境界のエキゾチックな哀愁のあるメロディ、と予想していたが、黒い瞳の少女達がくるくると軽やかに踊るようなイメージで、旧ソ連の国ではなくなった新しい国の大らかさを感じた。それはどんなに寒くても、暦の上ではもう春、陽光のわずかな変化に春を予感するような今の季節にも似たもので、絶対の森さんのベースが間違いのない天体のリズムとシンクロして再生を約束してくれる。

"Go Ahead Nigel"は、F1ドライバー、ナイジェル・マンセルへの福田さんの曲。今年、ナイジェル・マンセルにこの曲を届けられるかも知れないのだそうだ。ピアノとベースがユニゾンで、精密にエンジンをうならせる。ドラムが重力に反発しながら疾走するマシン、跳ねる馬の躍動を伝える。ライブ全体の中ではちょっと異色の曲ではあったけど、いくつかのアルバムと今回の「TRIO'」にも収録され、さらにライブでの演奏を市原さんからリクエストされたというのが頷ける。

アンコールは"酒とバラの日々"。予定外のアンコールとのことだったが、このライブでアンコールなしなんて、あり得ない。軽くてファンキーな「酒バラ!」。もっともっとたくさんの曲を、と思いつつ、終了後の森さんの、充実したライブだったからこその、ほっとした深い溜め息に「お疲れさまでした」


2004年1月15日
東京・六本木Alfieにて。


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