Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》シルクロードの装い-パリ・コレに花開いた遊牧の民の美

vol.120


■シルクロードの装い-パリ・コレに花開いた遊牧の民の美■





■2004年4月24日〜6月20日■東京・白金-東京都庭園美術館■

警備員さんがいるけれど、フレンドリーな雰囲気の門。チケット売り場も、建物の中の受付でも、この美術館はみんなが「こんにちは」と言って迎えてくれる。森に囲まれた白亜の庭園美術館。やはり緑の、植物のちからは人の心の持ち様に大きな影響があるんだなあと思う。室内のしっとりとした空気は雨模様の天気のせいばかりではないだろう。ヨーロッパのアールデコ様式を追求した宮家の住居であったここが、今もっとも日本的な空気感を持っているような気がする。

そのヨーロッパと日本を繋いだシルクロード。実際にそこで収集された服と、それにインスパイアされた「パリ・コレ」に登場したドレス。どこよりも乾いた、白っぽい砂ばかりが続く、というイメージがある土地。多くの民族衣装は、細かな細かな刺繍で彩られる。装飾ばかりでなく、布地を丈夫にする意味もあったろうと思う。湿気がない土地だし、豊かなわけでもない。貴重な水には毎日着替え、洗濯する余裕なんてあるはずもない。むき出しの大地で乾燥と共存した服。刺繍には様々な意味と願い・祈りが込められる。正装用とか外出用、婚礼用と用途が定められた服の多くには「魔除け」の刺繍が必ず施される。過酷な自然に翻弄されることを誰のせいにもせず、ただ「魔除け」とすることにこの地に住む人々の諦観を思う。それを模した「パリ・コレ」のドレスは色使いや刺繍のデザインにエキゾチックな雰囲気を感じるけれど、やはり本物の祈りが込められたものにはかなわない。奇麗なんだけど迫力が違う。

民族衣装の色使いはいつも不思議だ。服の色、刺繍の色は原色。赤、黄色、青、緑。偏りのない明るい色ばかりが使われる。そういう色に人々はどこで出会うのだろうと考えてみると、動物に流れる血と、植物に流れる血=樹液や絞り汁のそのままの色とそれから作る染料。これらの土地では、どれも貴重な命の色だ。だから、着ることで様々なものから身を守る「魔除け」の意味も色に込められるのだろう。

和服は、仕立てに厳密なルールがある。反物のどの部分が右の袂か、襟になるのはどこか、染めの時から決まってる。出来上がりが同じならいいというものではない。だから、どこの民族衣装もそういうものなんだと思っていたが、ここに展示されている服のほとんどは、「いきあたりばったり」で仕立てられているように見える。左右対称の服も、よく見るとちょっと足りないところに布がはぎ合わされている。縫い目と縫い目を合わせて畳むと、おそらくズレる。そで丈も左右で違う。でもそれは「適当」なのではなくて、貴重な布を無駄なく大切に使い切ったことの証なんだろう。和服の、無駄布が出ないような作り方もアリだし、別々の布をうまく使って一着の服にするのもあり。

本当は、「パリ・コレ」のドレスを目当てに出掛けた。壁に架けられた民族衣装やその周りの布たち。そして部屋の中央にドレスのトルソーが立つ。でも、どうしても目がいってしまうのは民族衣装。どんなに贅沢な布や毛皮を使おうと民族衣装に込められたものにはかなわない。子供を守りたい親の気持ち、幸せな花嫁にという願い、砂の道を訪ねてくれた客人をもてなすポットの模様。そで丈が短かろうが、サイズが合わなかろうが、ドリス・ヴァンノッテンのドレスよりきれい。


2004年5月19日

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