Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》TRIO'-040608

vol.125


TRIO'



2004年6月8日
東京・六本木Alfie

TRIO'
 市原康(Drs)
 福田重男(Pf)
 森泰人(B)


帰りの電車の中、「何にも聞こえない」と思う。一瞬、耳が聴こえてないのかと不安になる。すぐに話し声・モーター音・アナウンスとザワザワした音がいつも通りに溢れていることに気付く。とても印象的な時間のあと、余韻のなかにいて、頭の中では曲にならないライブの断片が繰り返されている。

森さんの帰国に合わせた今年1月にレコーディングとライブを行ない、今回のライブもまた森さんの帰国に合わせたもの。そのアルバム製作中ということもあり、1月の演奏が記憶に深かったら、この日のライブに悪影響があるんじゃないか心配だったという市原さん。ところが杞憂。「この二人ぜーんぜん覚えてないんだもん」と水を向けられた森さんは、その声も耳に入ってなかった様。ということで、また新鮮なライブに。

ステージの様子はラフで何の気負いもない。音を重ねて重ねて、それによって生まれる不思議な透明感は、ひと雨ごとに色を変える紫陽花のようにきれいなメロディーの曲たち。それを一度くずして、さらにきれいな曲に作り上げる。その美しさに、窓から見える夜空に放り出されてしまうような一抹の不安を覚えた後、自分の下に柔らかく緻密に作られた舟が旋律の流れに漂うのが見る。その舟さえあれば、という安心感がただ美しいばかりでなく、楽しさを誘う。聴いているうちに客席もトリオも同じテンションで段々と笑顔に。きれいと楽しいがダンスしたら、音楽としては最強でしょう。

タイトルからイメージする具象をむしろ抽象的に、だからこそ余計に、直接に心に風景の風が吹き渡る。"How deep is ocean"小さな色の集まりが青い海を作り上げるように、3つの楽器の音の重なりが大きな海を見せてくれる。

1月のライブでも聴いた"Ginji"。「あれぇこれ"Ginji"?」クールなピアノのバース、「ボサノバ〜?」と思う意外な始まり。ベース、ドラムと加わり、何となく聞き覚えのあるフレーズに行き当たるけど、やっぱり「意外」は去らず。でも、"Ginji"を聴きに来たんじゃなくて、「TRIO'」を聴きに来たんだから。福田さんのクールなピアノが際立った曲だったと思う。そして、福田さん自身の盛り上がりを期待して、もういちど聴きたかった"Go Ahead Nigel"。オーバーテイクを許さずに、余裕でトップを維持するナイジェル・マンセルが途中グラベルに捕まるというアクシデント(福田さんも意図しなかったものだけど)があったりで、やっぱりおもしろい曲。

ライブのほとんどをブラシで演奏していた市原さんのドラム。ごく普通の、シンプルなセットで、なんて光に溢れた音を出す人だろう。大きな夜景を見ているような。光に満ちていても昼の風景ではなくて、どこか神秘的な、闇の中でこそ冴える音。市原さんのドラムをトリオ編成でしか聴いたことがなく、他の編成だったら、どんなだろうと思っていたら、ラストでお嬢さんの市原ひかりさんがトランペットで加わった"And They Lived Happy Ever After"(ひかりさん作曲)。その曲ではスティック。スリリングな響きが強く、トランペットを導く、たくましい音に変わる。やはり「お父さん」の優しさや誇らしさも多分に加わっているような。

数日前の「スカンジナビアン・コネクション」でも感じたのだけど、今回の帰国で森さんのベースをとても渋いと思う。"To Staffan"の底知れぬ深さの中に、温かさと強く感じるビターな音が印象的だ。森さんのベースの音だけで、自分の中の澱が消えるような感覚があるのだけど、新たに感じるビターなもので、さらに浄化されニュートラルになる。人間の体は、ときには「苦み」や「渋み」で浄化することが大切、と聞いたことがある。まさにそれなんだろうな。

数カ月にいちどの森さんのライブ。その余韻を持ちつつ、次回を待つことを繰り返す。そうやってライブを重ね、余韻はユズリハのように新たな印象とともに生まれ変わる。次のスケジュールを確認して、新しい葉は芽吹く準備をしている。


2004年6月8日
東京・六本木Alfieにて。


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