Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》One Size fits all

vol.121


One Size fits all



■5月25日■東京・目黒Blues Alley Japan■


□バカボン鈴木(B) 鶴谷智生(Drs)
□坂田明(Sax)
□仙波清彦、ホアチョ、ヤヒロ・トモヒロ(Per)
□小島良喜(Pf/Key)
□古川望、今堀恒夫(Gt)

それぞれ1時間半くらいの演奏、2ステージが終わり、アンコールの拍手でステージに戻ったバカボンさんが「こういうライブだって知らないで来た人?」と聞く。ちらほらと手を挙げる人。「ああ〜」と含み笑いのバカボンさん、他のメンバー、知ってて来たお客。

"One Size fits all"(通称"一発もん")というこのライブは、ベースのバカボン鈴木とドラムの鶴谷智生が核となる。強力で実力のあるメンバーをその時々で揃え、このライブに声が掛かるのは、ミュージシャンとしてかなり栄誉なことだと思う。

ステージの、誰の前にも譜面はない。すべて即興。初めと終わりだけ打ち合わせがあるけれど、演奏が始まったら1ステージ1時間半はノンストップ、即興のみで作られる。このソロのあと誰に行くのか、流れを読んで、あえて竿さすも、乗るも、乗らせるもミュージシャンの力量次第。

3人のパーカッションのそれぞれの楽器(?)は個性豊かで、どんな演奏になるのか楽しみ。コンガを中心にオーソドックスな民族打楽器のヤヒロ・トモヒロ、焼肉できそうな電気っぽいドラム?楽器?を並べるホアチョ、本当におもちゃ箱をひっくり返してスタンバイの仙波清彦。中心にドラム。ベース、キーボード、ギターと散らばったステージ上、演奏がライブが始まると目と耳が忙しい!仙波さんが何を手にするか左目でチェックしつつ、ひさびさヤヒロさんのコンガを右耳と右目で追いつつ、真ん中の鶴谷さんのドラムを見ないと!でも、その前に立つ坂田さんのサックスも聴きたいし、"一発もん"初出演の小島さんはどんな演奏を聴かせてくれるのか!クレーンカメラで撮影して、マルチ画面で見たいライブ。

実際にこのスタイルのライブをするのは珍しいと思うけど、ホントはライブの基本的・根源的なものだと思う。海のように。波は規則正しいかと思うと風を受けて力が変わって、別の波に寄り添っていったり、潜ってみたり、うねってみたり。クジラがさぶーんと海面を大きな尾で打ち付けるような鶴谷さんのドラムソロがあったり、海面近くを泳ぐ魚の群れが銀鱗を見せる古川さんのギター。かと思うと、その群れにカモメが襲い掛かる仙波さんのパーカッション。深海を漂う未知の生物はホアチョさんのパーカッション。凪もあり、嵐もある。巻き込まれたら恐い嵐もハタで見てるなら、ゾクゾクする力強さに圧倒されるのもいい。凪のとき、お客もようやく飲みものを口にできる。

と、いうライブだから、この曲のこんなところが、という細かな部分やひとりの演奏者だけに注目することは難しい。キョロキョロけっこう大変なんだ、見るほうも。誰かのソロの時、見守りつつ何か企んでいそうな笑顔がステージの反対側にあったりする。

「この曲」「あの曲」を演奏する時、ミュージシャンは「存在」に向き合っているのかと思う。「曲」をどう表現するか、料理するか。インスピレーションやアドリブで「また別の曲」が出来上がったとしても、どうしても「曲」という範疇にあるものだと思う。一方、"One Size fits all"というライブでステージに立ったミュージシャンの前にあるのは「時間」。1ステージ分の時が過ぎた後、残るのは「あの曲」ではなくて「あの時」なのだ。録音して追体験したとしても、フレーズが生まれた瞬間のスパークは「その時」を体感していないとね、という秘密めいた共感がミュージシャンとお客の間にも持たれると思う。「曲」より「時間」の比重が大きいライブがより面白いと感じられるのはそういうこともあってだろう。

実際には、"One Size fits all"のすべてがその時に生まれたものではなくて、各ミュージシャンが温めていたフレーズや過去の蓄積が再生された部分も多いだろう。時間というのは、そうやって再生されながら進んでいくものだと思う。一定のスピードで生まれていく新しい瞬間のところどころに、過去が呼び覚まされ、挟み込まれていく。そうするとまだ生まれ得ぬ時間に僅かずつのストックができて、明るい未来に余裕ができるわけね。当然、挟まれた過去が大したことないものだったら、流れた「あの時」もなかったことにしたい過去になる。

ライブが終わって、夜風が気持ちいい脱力感・疲労感。まるで自分も演奏したかのような達成感は、ミュージシャンと時間を共有できたという思い込みであったとしても。


2004年5月25日

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