Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》田中一光回顧展

vol.105


田中一光回顧展



2003年6月21日〜8月3日
東京都現代美術館


よく知られたところでは、「無印良品」のロゴのデザインとアドバイザリーボードメンバーとして、その「形」「姿勢」を作った人。意外なものでは、石丸電気のロゴもこの人のデザイン。

展示のほとんどをポスターが占める。大阪万博や産経観世能のポスターは、誰でも目にしたことがあるだろうし、記憶に残っているものだと思う。展覧会の冒頭にある、カブキの色使いの産経観世能のポスターは、誰がデザインした、ということを掠めもしないほどにステレオタイプの日本にぴったりで、なんだかちょっとおもしろくないな、と思う。「名のあるデザイナー」が作ったものらしくない、安易な日本が感じられて。でも回顧展だし、と、じっくり見てみる。ポスターそのものにインパクトがあり、視線がとらえやすい。日本の古典芸能である、と一瞬でインプットされる色使い。そして「産経観世能」という文字が目に入ると色のインパクトは消えてしまい、演目や日にちといった必要な情報を次々に目がとらえることになる。ということは、すごく優れたポスターということだろう。

会場の展示デザインは、安藤忠雄。透明のペットボトルをいくつもつなげて、それを天井から吊り下げて壁にして、両面にポスターが2段×たくさん、きっちりと貼られている。それが何面も続く。会場に入った瞬間に「おっ」と思うものの、すぐに気にならなくなる。透明の壁は、ポスターだけを引き立たせて見やすく動きやすい。これもなんだか、「田中一光」をとてもよく現しているのだと思う。

演劇やコンサートのポスターからグラフィックデザイナーとして出発した田中一光の、初期の作品から年代を追って展示されている。最初から目にインパクトがあって、必要な情報がすっきりとすべて盛り込まれたポスターを作っていた。フライヤー作りやウェブサイト作成をちょっとかじったりしてる私には「勉強になりました!」という感じ。見た目がきれいでも、何のことか全くわからないポスターや文字ばかり並んでいてちっとも楽しそうではないフライヤーは、そのへんにごろごろある。ひとりよがりのデザインを「オシャレ」と嘯いてみたり、生真面目すぎて見る人にストレスを感じさせてしまうもの、どちらかに片寄るしかないのかとため息がでることもあったけど、やればできる!できる人にはできるんだと別のため息。

あ、このお芝居も、この展覧会も田中一光がポスターを作っていたんだ。何年も前に見た芝居や展覧会が甦る。このポスター覚えてる。というものがいくつもある。回顧展だ、優れたデザインだと勉強になると見始めたが、やがてポスターを眺めていること自体が楽しくなってくる。この舞台を見たい、この商品が欲しいと何年も前のものに素直に感じる。

何を伝えたいか、文字と絵それぞれに同じ比重を持たせたことも田中一光の特徴であり、意義であったようだ。文字しか並んでいなくても華やかさと伝統を感じさせる「いけばな展」のポスターや、逆にイラストをちりばめて「目で語る」といったふうに意味が届けられるもの。パソコンが普及し、デザインとは無縁の人でも自在にフォントを操れるようになった。頭と気持ちに同時に意味を伝えることのできる、便利なツールだ。ふさわしいフォントを使えば、正しく伝えることはさらに容易になる。選び抜いて「正解」を見つけたときの鮮やかな効果が素晴らしい。ひらがなかカタカナか、漢字か。文字、書体について、きちんと考えてみたい。

ポスターの展示の次にCGでロゴマークのデザインがくるくると飛び出す映像コーナー。無印良品や石丸電気やLoftのロゴ。これもパッと目に付く「強い」ものが多い。待ち合わせや町中での目印に、便利に使わせてもらってます。そして、田中一光の仕事机の一部が再現されている。簡単にデザインというと感性が頼りと思いがちだが、この人は、かなり理詰め、計算を尽くした人だと思う。好き嫌いを超越して、誰の目をも惹き付け、伝えられるということは、たいへんな武器であると思う。


2003年7月2日
東京:木場 東京都現代美術館にて

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