Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》「レオン・スピリアールト展」

vol.102


「レオン・スピリアールト展」



「レオン・スピリアールト展」
2003年4月6日〜6月6日
東京京橋・ブリヂストン美術館

私はどんな絵が好きなんだろうと挙げてみると、暗い絵、かなり好きかも。色数が多かったり、明るい色使いの絵よりも、落ち着いて向き合って、いろいろと探るということができるから、暗かったりシンプルな絵のほうが見るにはおもしろいように思う。

東京駅を八重洲口のほうに出て、京橋・日本橋のビジネス街には、この展覧会のフラッグがたくさんはためいている。そこには「めまい」というモノクロームの絵が使われている。グッケンハイム美術館を逆さにしたような階段を降りる女性を描いた絵。「すっごい好きな暗さ」。ヒチコックの映画にありそうな、そのエレガントさもすこし感じる。
レオン・スピリアールトは、20世紀初めに多くの作品を残したベルギーの画家という、いかにも暗い絵を描きそうなプロフィール。展示室の一番始めの若い自画像からして、首を吊りそうな暗さ。

大部分の絵が墨の淡彩で描かれ、他の色と言えば深い青のパステル。ときたま黄色やオレンジで描いたものもあるが、別人が描いた絵が紛れ込んだように浮いて見える。描かれる場所も自らが住んだオーステンドという海辺の町の、堤防や波打ち際という危うさを感じさせるところ。人物も顔を背けていたり、逆光に彫りだけを強調され、老いさらばえた老婆のような少女やムンクの「叫び」を思わせるような恐怖を隠しきれない表情を持つ。色合い、モチーフと絶望的に暗い要素ばかりが並んでいるが、実際には軽やかなリズムがある。ほとんどの絵に繰り返される「C」や「S」が本質的にポジティブであると感じさせる。暗い暗いと言っても、墨の淡彩で骨太に描かれた絵は力強さと繊細さがあり、シンプルなだけに構成や表現に力がなければ、冗長なものになってしまう。自信やオーラが引力にもなっている。

人物に比重を置いた絵のコーナーの次には、風景や建物を大きく描いた作品がある。こちらもやはり色使いは墨が多い。なにかちょっと違う遠近感、だまし絵みたいな光と影。「あ、この人もやっぱり!」後でカタログを読むと書いてあった。ジャポニズムの影響を少なからず受けていると。小林清親や井上安治のような明治時代の浮世絵の雰囲気が感じられる。地面と水面のあやふやな際とシルエットだけで描かれた建物。そこにすうっと流れる灯の黄色い筋。版画のようにちょっとギザギザの線が逆に臨場感を増す。浮世絵・日本画を意識してはいなかったようだけど、「追跡」という絵の水面に弾ける雨粒や小さな人物は、「東海道五十三次」の一枚にありそうだし、そういえば、「ガラス張りの屋根」や「美容室」のとぼけた遠近感は日本画のようだ。「水浴の女」や「少女達と波」の波の描き方も光琳の水そのものと言えそうだ。

そんなふうに(無理やり?)気付いて見ると、実験的にいろんな絵を描いている人のように思えてくる。カタログには「シュルレアリズムの先駆者」などと評されているが、その時々に興味のあったものを「面白がって」自分の中にストックしてあった画法で描いてみた人、というほうが一緒に風景を楽しめるような気がする。

2003年5月21日

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