Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》和泉宏隆〜日本の唱歌集発売記念コンサート〜

vol.111


和泉宏隆〜日本の唱歌集発売記念コンサート〜



■2003年10月23日
■東京・六本木STB139

■和泉宏隆(Pf)
■Guest:鳥山雄司(Gt)

数カ月に1度ペースで和泉さんのソロピアノは聴いているけれど、ちょっと大きなハコで聴くのは本当に久しぶり。毎週やってる銀座Panacheのアットホームな、にもかかわらずダイナミックなピアノに比べ、距離感は否めないけど、オフィシャルなサービスや雰囲気もたまには楽しみたい。

ステージの真ん中にピアノ、そこに当たる柔らかな照明が秋の空気感を醸して、ゆったりと時間が流れる。日本の唱歌をソロピアノで演奏した新しいアルバムの発売記念コンサートであり、"荒城の月"と"あかとんぼ"、"月の砂漠"、"砂山"というタイトルが並ぶ。以前出されていたアルバムにも収録されていた曲だけど、数年を経て、どれも厚みが増して、よりドラマチックになっていると思う。メロディの美しさを聴かせていた曲が、ものすごい美人に成長したような感じ。ここで披露された曲はどれもポジティブな歌詞ではなくて、懐古であったり届かぬ思いを歌ったものだけど、暗さの中にわずかに感じる光がとても美しく磨かれて大きな風景へと繋がっている。以前にも書いたことだけど和泉さんのピアノの音が表現する日本には黒漆に金蒔絵の華やかさを感じる。耳慣れたピアノという楽器で、風景を五文字、七文字で切り取り、文様にデザインする。すうぅっと入ってくる旋律は、唱歌という曲達の完成度の高さにも改めて感じ入る。古楽器で現在の曲を演奏するような媚がなくて心地よい。

ゲストにギターの鳥山雄司氏を迎えて。鳥山さんというと近頃は「世界遺産」のテーマの作曲者として知られているが、私にしてみれば「世界遺産」は異色の作品。フュージョンのギタリストとして聴いていた人だ。この日はアコースティックギターで共演。ハリのある音色が響き、ボディを叩く音も加わり、ラテンジャズの雰囲気。乾いた、とても爽やかな音で、瑞々しい和泉さんのピアノとつかず離れず息の合ったギターは、懐かしく優しい音色の、まるでひとつの楽器のように聴こえる。「世界遺産」や和泉さんオリジナルのピアノ、ギターのデュオは、ゆったりと大きな世界が広がって、思わず目を閉じて聴き入ってしまう。とても丁寧に音楽を聴かせてくれる姿勢が嬉しい。

圧巻はアンコールの"Spain"。この1曲を一緒に演奏するために、ゲストに鳥山さんを迎えたのではないかと、その演出に感謝。デュオでこんなにも熱く濃い時間が流れたことが信じがたい。アルハンブラ宮殿のエキゾチックなタイルも熱くしてしまうように、フラメンコダンサーのドレスの裾がくるくると翻るメロディーとうねる腕のようなリズム。ヒールが床を蹴る音、扇情的なカスタネットの音までも聴こえてくる。和泉さんも鳥山さんも音楽に取り憑かれたように、楽器をかき鳴らし、叩く。とは言え、大らかで洗練された雰囲気は損なわれない。作曲者や楽器と会話するように丁寧に丁寧に音を綴る演奏と、何かに命じられたように体が楽器に吸い付いて行く演奏と二通りを一夜で味わえたこと、ライブの歓び。すこし早くThanks giving dayが訪れたようだ。


2003年10月23日
東京・六本木STB139にて。


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