Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》浜離宮ユーロ・ジャズ・シリーズ--ウルフ・ワケーニウス・グループ--

vol.104


浜離宮ユーロ・ジャズ・シリーズ
-----ウルフ・ワケーニウス・グループ-----



2003年6月20日
東京・浜離宮朝日ホール

ウルフ・ワケーニウス(Gt)
カーシュテン・ダール(Pf)
モーテン・ルンド(Drs)
森 泰人(B)


「とろり」としたウルフ・ワケーニウスのエレキ・ギターの音色。はちみつやクリームのような甘いとろりではない。坩堝で融かされた、固体とも液体ともつかない輝き。響きのいいホールへ放たれると、とんでもない熱さだったものが、冷たく輝く透明でキラキラの光になる。

1週間前からの「スカンジナビアン・コネクション」のツアーのメンバーに、ウルフ・ワケーニウスを加えたライブ。ちょうど同じ時期に日本でのコンサートを行なったオスカー・ピーターソンに連れて行かれてしまったウルフのギターがようやく聴ける。

室内楽用の美しいホールでのジャズ・ライブは、出かける前にはいつも「なんだかな〜」と思ってしまうのだけど、皆が平等に聴ける、見えるという点ではライブハウスよりいいかもしれない。基本的に椅子に大人しく座って聴くから、ライブハウスでの作法に不馴れであってもかまわない。逆に気楽なものかもしれない。大きく拍手すると周りの人にぶつかってしまいそうなBODY&SOULでのライブから1週間後、きょうはふかふかシートにゆったり座って楽しもう。そう思ったのも束の間、結局、身を乗り出して聴いている。

まず、森さんが登場。ステージの真ん中でメンバーをひとりひとり紹介しながら招く。ピアノのカーシュテン・ダールもドラムのモーテン・ルンドも、雰囲気がまったく違うステージでもリラックスした様子はBODY&SOULと同じ。相変わらず、MCが長い、と森さんを急かす。決して長いお話じゃない。

さすがに音がいい。ため息が出るような、だけど、その音でさえ響いてしまいそうで息を止める。ホールの残響がいいのももちろんだけど、それを活かしきれる力量のミュージシャンだからこそ。4人それぞれの音がとてもクリアに聴こえる。ドラムとベースはBODY&SOULより、軽やかな音に聴こえるのは、そのパワーの届く壁がずっと遠くにあるせいだろうか。どこまでもすうっと通りがよく、鮮やかなまま吸い込まれていく。ピアノはメロディアスでありパーカッシブ。永遠に鍵盤が続いていくように自由に走っている。ライブハウスでの厚みやライブ感とは違う素材を操っているように感じる。とても透明感のあるライブだ。

3曲、ソロでのウルフの演奏があった。エレキ・ギターでこれほどにまろやかな音を聴かせてくれる人を他に知らない。自然に目を閉じる。その音は、ホールに溶け出しては一つ一つが空にかかる星になる。とても懐かしい音色。ずっと前に聴いたことがある、絶対に。本当に小さな子供だった頃に。そんな小さな頃にギターを聴いた?記憶を遡っていくと、母が持っていたオルゴールに辿り着く。それが失われた今では、同じ曲だったのか、似た音色だったのか、確かめる術はない。オルゴールの曲よりも、そこに収められていたブローチやネックレスのキラキラの記憶と重なる。こっそり覗いたドキドキと切なくて甘い記憶だ。

黒いエレキギターを携えたウルフの姿だけを見れば、そのスタイルは男臭いブルースかロックに間違いないと思ってしまう。だが、聴こえてくる音はとてつもなく気高く美しい。「北欧ジャズ」という言葉のイメージさせる外見にぴったりのカーシュテン・ダールとモーテン・ルンドが楽器に向かえば、リリカルな優しいジャズだと思うだろう。聴きやすく、おしゃれなBGMによさそうな。ところがスピード感たっぷりのピアノとパワフルに轟くドラム。そしてお茶目な演出も忘れないライブスタイル。毎回、先入観を見事に裏切られることに慣れもし、また、裏切られたい期待も増す。ライブからの帰り道はいつも「よかったよね!」と振り返ることが切なくて、「次の来日、いつ?」


2003年6月20日
東京・浜離宮朝日ホールにて

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