Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》scandinavian connection 2003 August-13

vol.106


16th scandinavian connection 2003 August-13



2003年8月13日
東京・南青山Body & Soul

マイク・デル・フェロー(Pf)
セバスティアーン・カプティーン(Drs)
森 泰人(B)


スカンジナビアン、だけど、今回のピアニストとドラマーはオランダの人。森さんと3人で台湾でトゥーツ・シールマンスのコンサートツアーに合流する。日本での短いツアーは、マイク・デル・フェローとセバスティアーン・カプティーンの希望で実現したとのこと。

ピアノのマイク・デル・フェローのお父さんは、オペラ歌手。それを「なるほどね〜」とうなずいてしまう風貌の人だ。バリトンで歌う姿も想像できるような。マイクのオペラ曲をアレンジしたアルバムからの曲を多く演奏する。シワ一つない真っ白いシャツにブラックタイをきっちりと締めたような厳格な響きのあるピアノの音。ラフとかカジュアルという言葉の入る余地がない、ちょっと固すぎか?と思う。でもいわゆるクラシックピアノとはやはり違う。トゥーツ・シールマンスの遊びのあるハーモニカとはどうなんだろう?とも。

ドラムのセバスティアーン・カプティーンはルックスのいい人。頭のよさそうなトム・クルーズみたい。そのドラムは、「この流れなら、こうくる」を裏切り、「ここでそれはないんじゃない?」という反則技的なもの。抜き打ちに聴こえるハイハットの響きに「え?」とびっくりする。ブラシでスネアをこする音も「サラサラ」ではなく、ざわつく荒波の音。ところが遊びのなさそうなマイクのピアノとセオリー無視的なセバスティアーンのドラムは、なんだか心地よくマッチする。ここにトゥーツの甘いハーモニカが入ったら、うん確かに合うだろうな。

「ではハバネラを」と森さんが言う。「ハバネラ?」聞き間違いか、私の知らない「ハバネラ」がまた別にあるんだろうと思っているとピアノのソロでカルメンのハバネラの印象的なイントロ(というか、いきなりテーマなんだけど)が聴こえる。それでもまだ頭は反応無しに止まったまま。ラテンの雰囲気、といってもアルゼンチン・タンゴのように聴こえるハバネラ。ここでマイクはブラックタイを緩めてくわえ煙草をくゆらすようなソロを聴かせてくれた。それでもリラックスとは遠く、冒しがたいルールをきっちりと守ったうえで成立する大人の世界。スネアをどかし、中心にジャンベーを置き、素手で叩くセバスティアーンが合流するとわずかに緩みが生まれる。休息する軍人にしなだれかかる妖艶な美女。まさにカルメンの一場面を見るような。一発触発の緊迫感と緩みが繰り返される空気を落ち着かせる森さんのベース。オペラ曲をジャズで、というとバラードにしたり、ガーシュインだったりが相場。それをビゼーのカルメンをジャズにしてしまうところがマイクの遊び心なんだろうか。その選曲がおもしろい。

磨き抜かれた琥珀のようなピアノに対して、未踏峰の切り立った岩山のようなドラム。目を離すと、どんな岩がクレバスが現れるかわからないスリル。スネアとジャンべー(コンガの上半分に鉄の足をつけたようなアフリカの太鼓)を使い分ける。スタンダードのバラードにもジャンベーを使い、その使い分けの基準が分からないんだけど、ジャンベーだからといってエスニックな雰囲気を演出するわけではなく、ピアノのきっちり感を遊びに換えるために使うように感じた。

最後の曲は「プレリュード」。また頭が止まる。プレリュードって、え〜っと。。。どんなのだっけ?私だけでなく、BODY&SOULに「?」マークがいくつか飛んでいたように思う。マイクが楽しそうな顔をして(人を驚かすのが好きみたいだ)、またカルメンの、プレリュードを弾きだす。「それか!」と「!」が飛び交う。ほかにもオペラ曲をいくつも演奏したけれど、意外性が際立っていたのは「ハバネラ」と「プレリュード」。よく知られたメロディーと印象深いストーリーを自分の曲にしてしまう見事さ。ピアノとドラムがお互い好き勝手にやっているような真ん中に森さんのベース。やっぱり森さんも面白がっているような感じ。しっとりとしたバラードでも、そのままでは終わらせない「工夫(おちゃめ」をする。弦のはじき方、弓の使い方に森さんがそのそぶりを見せるとセバスティアーンも即座に反応して、一緒になってしっとりとは終わらせない方向に持っていく。柔らかなメロディーに瞼は重く、耳は冴え、という状態で聴いているとプレーヤーの気分が変わったことに気付いて「ちゃんと見とこう」と目を見開いたりして。


2003年8月13日
南青山BODY&SOULにて