Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》scandinavian connection 2003 June-13

vol.103


15th scandinavian connection 2003 June-13



2003年6月13日
東京・南青山Body & Soul

カーシュテン・ダール(Pf)
モーテン・ルンド(Drs)
森 泰人(B)


ピアノは楽屋から一番近いとこにある。客席をかき分けかき分け位置につく森さんがまだベースに手も触れてないのにピアノが走り出す。ベースとドラムの準備もまだだけど、お客さんも。店内の照明が変わる。「いよいよ!」とおしゃべりをやめて、食べる手をとめ、ステージに体を向けて「さあ聴くぞ」と体勢を整える。いつもなら、そこに間がある。イントロがモードの切り替えを促してくれるのだけど、いきなりエンジン全開のピアノ。急発進した車のシートに体が叩き付けられるよう。

「ちょっと待って」と、誰もが思いつつ、客席の視線はダッシュするピアノに一気に集中する。こんなにアグレッシブなピアノだなんて思ってなかった。数カ月前にリリースされたCDでは柔らかく叙情的な音。開演前に買ったCDに森さんは「それはキース・ジャレットっぽいかな」と(顔はチック・コリアみたい)。音数が多くてスピード感があって「パーカッシブなピアノ」と森さんがいうようにビートが効いてる。だけどそれらとメロディの美しさや華やかさという相反するものが一緒に溢れ出てくる。響きもきれい。ベースとドラムが音を出す頃には頭の中は「?」と「!」でいっぱい。スピード感にびっくりしたのと期待とでこっちも走ったみたいにドキドキ。

前評判通り、というかそれ以上のライブになるだろうと顔が緩んでしまう。「スカンジナビアン・コネクション」のライブのなかで、プレーヤーの声が一番聞こえてきたライブでもあった。ピアノと一緒に歌う、うなるカーシュテン・ダール。そのピアノを受けて歓声と笑い声とともにドラムを操るモーテン・ルンドもやはり、いくつもの表情を同時に感じさせるミュージシャンだ。すっきりと流れるような両腕の動きから、信じがたいほどに力強い牙と咆哮を感じさせるドラムは豹のようと言ったらいいのだろうか。そして時にはドラムに触れていないようにふわふわと、タクトを振っているように軽い動きは、ミッキーマウスのようにお茶目だったりする。セッティングはシンプルだし、頑張ってる!表情なんて少しも見せないのに、雷鳴が轟くような迫力ある音が聴こえる。本当にこの人がここで叩いているんだろうか?と目の前で見ているのに疑ってしまう。金髪のインテリっぽい面立ちからは想像できない力強さ。

この二人の技術力の高い職人技と、表現力と創造性が豊かなアーティストっぷり、そして彼等自身がライブを思いっきり楽しんでいる笑顔がステージを客席を盛り上げる。ポジティブな空気の詰まった風船が店内にいくつもいくつも飛んで「楽しい!」という気持ちでぎゅうぎゅう詰めだ。その風船が弾けた空気で呼吸している幸福感。

そんな熱いステージの真ん中に、大木がある。その木陰で水を一気に飲み干す。もう一杯をゆっくりと味わう。水って美味しい素晴らしいと思い、濃い緑の葉をいっぱいに茂らせる大木の包容力が森さんのベースだ。この日、ツアー初日でプログラムはなんにも決まってなくて、譜面台も譜面もない。ピアノのカーシュテン・ダールが思い付いた曲を奏で出すとドラムのモーテン・ルンドが「あー、はいはい。その曲ね」とか「そうくるなら、これでどうだ!」とでも言うように、まぁ本当に楽しそうにドラムを叩きだす。その二人をなだめるようにつなぐようにベースが引き締める。

若いピアノ(35歳)とドラム(30歳)がどちらもメロディとリズムをぐるぐるとはじき出すステージの真ん中にベースがいて、(大木の周りでぐるぐると走り回ってバターにならなきゃいいけど。)二人の音符の隙間からその音が聴こえてくる瞬間、涼風がさっと薫る。とても控えめなベースではあったけど、音のひとつひとつがいつにも増して厚みがあって、ほっとさせてくれる。いま思うと、このライブで印象に残っているのは、やはり森さんのベースだ。たった一つの音であっても、ちからと優しさが存分に感じられる。

プログラムは、スタンダード中心。「枯葉」でもスピード感たっぷりの楽し気な雰囲気で演奏された。それは、さまざまな憂いもなにも流し去り、感情を素直にさせる。そして空っぽになったところに「Over The Rainbow」が注ぎ込まれた。シンプルなバラード。なんていう美しさだろう。装飾はなにもなく、ただ磨き込まれただけの曲。森さんの弓の切ない余韻。真昼の虹ではなく、夜空にかかるMilky Wayと言ったほうが色彩や輝きが近いと思う。

ちょっと楽しすぎ、はしゃぎ過ぎのライブになりそうなところにこのバラードが演奏されたことで、全体が引き締まり、音楽への敬意というものまで感じられた。音楽は天恵であると、ふと思う。こんなにきれいなもの楽しいものの存在を誰にということなく、心のなかで感謝した。


2003年6月13日
南青山BODY&SOULにて

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