Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》09/05/19


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.267

レッジョ・エミリア●美しいテアトル・イタリアーノ

 著名な都市ではありませんが、豊かな地域と聞きました。六角形の旧市街を囲むように穏やかな住宅街が広がる、落ち着いた人々の暮らしを髣髴とさせる美しい公園の縁・市民広場の真ん前に、この劇場があります。外観はレンガ建てで整然としているものの、こんなに磨き上げられた内部空間が維持されているとは、本当に驚きです。

 ルネサンス様式(決してバロックでもロココでもなく)は平明で、きりっと立ち上がるボックス席に囲まれた平土間席
は整然として、しかし、草花を象った金の装飾はふんだんにドーム天井までを覆い、クリスタルのシャンデリア、真紅のカーテンとドレープは感動的です。間口は6間ほど、広すぎず、緞帳前には黒地絣を敷いて。

 全てが絶妙なバランスで組み立てられています。傾斜舞台の勾配も最上階の天井桟敷も、実に教科書で見たとおり、ソデ幕や文字幕にいたっては、お見事すぎて、それだけで十分に美しく均整も取れて、どんな照明が射し込んでも(それがフォーカスされていないランプでも)もう絵になってしまうぐらい。恐れ入りました。

 傾斜舞台の外側には柱があって、そのさらに外はレンガ敷き。下手にはパイプオルガン、上手には舞台監督室があり、丁寧にお金と手間暇をかけて維持されている建物の様子が分かります。楽屋の各室も、もちろん舞台も、隅々まで掃き清められていて極めて清潔、イタリアという国、その劇場文化の正統性を再認識させられました。

 クラウディオ・アバドが監督を務めていた時期があるとか(未確認情報です)で、全てのスタッフが誇りに満ち、的確
に正確に作業を進めていきます。良かったです。敷居は高いかも知れませんが、こういう現場こそ、完成度の上がる素晴らしい作品を期待して、多くの熱心なお客さんが見てきてくださるに違いありません。

 今回のヨーロッパツアー、鼓童「越境」とサブタイトルをつけて、イタリアを皮切りにトルコ・ギリシャ、ロンドン・フランス、ほか数カ国を廻ります。岩村はこのレッジョまで同行ですが、あとはチームのスタッフ達が全てを預かって旅を引き受けてくれました。もしお近くにお住まいの節にはどうぞ、ご覧になってください。

 今回の焦点は「人物」にあります。これまでは「太鼓」や「太鼓と人」の造形を照らしてコンサートを彩ってきたのですが、一転して人の働き、人の姿や輝きを表現するデザインを志しています。敢えて舞台の奥行きを殺したり、あるいは物の立体感を意識しなかったりという景を経て、最終的には鼓童の演奏家達の表情を魅せます。

 越境、つまり目に見えない仕切りを越えること、その仕切りは私たちの生活や言葉にまつわって存在していて、しかし、音楽以前の音や演奏家以前の人物が、客席に座る皆さんに直接届くとき、見えるとき、束の間、そうした仕切りを抜けて、飛び越えて、なぜ私たちがここにいるのか、この場を共有しているのかが悟られる。

 光はここでは空間の時間軸とその方向性を示唆するばかりです。

(2009/5/19)


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