Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》09/03/22


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.266

毎日新聞7階ホール●セレノグラフィカ「毎日がダンス!」

 劇場ではないところで上演を重ねる作品、というのがこのセレノグラフィカ・レパートリーの特色でしょうか。京都御所に程近い、元・春日小学校の北側に建つ毎日新聞社ビルには、東側を広くガラス窓に開放したカマボコ天井のホールがあります。

 比叡山、右大文字から岡崎、清水寺までを見通せる景色がごちそうです。建築家若林氏の作品空間は、床材の明るいオーク色が白い天井に映えて、黄金色の夢を見るような光が満ち、北天からの透明な空光もガラスブロックに拡散して、贅沢です。

 この穏やかな場所には相応に豊かに響く音楽と自然なままのダンスをレイアウトすることにしました。演出照明は無し、客席は3部構成それぞれごとに並べ替えをし、夜の部と午後の部には簡単なおもてなしを用意。装置も極力、無くしました。

 対面客席は2人のダンスを取り囲むコール・ドのように機能し、振り付けの機微が取捨選択されて拡散し、観客に浸透していく感じがします。緊張を伴う作品ですが、必ずしもシリアスな内容ではないので、こうした仕組みは良い結果を招きました。

 西陣ファクトリーGardenでは、建物の中が暗いのとアクセスやアプローチが秘密めいているので、観客席には常時ある種の疑念が漂ってしまいます。今回は何もかもが大変に素直で、本当に良く難しくない見せ方、を収穫する体験をしました。

 例えば導入、静かに少しづつ作品に足を踏み入れる感覚、自分の隣に座る誰かが息を整え、聞こえてくる音と見えてくるものの気配に身を添わせる様子、抵抗せずに、ありのままの舞台の状況を眺めていようという気分。どれも失いがちのことです。

 休憩時間の有り難さ、集中と弛緩の波の中で作品から解放される一時、余りにも深く帰って来れなかったり・余りにも遠く戻って行けなかったり、と言う程に深刻な物語でもないならば、ちょっとした息抜きの時間は、あったほうが、もっと楽しい。

 舞台転換の醍醐味、今まで見ていた風景がガラッと変わって、新しい世界観を提供する瞬間、照明や音響ばかりではなく、装置や仕掛けがひっくり返る面白さはとても大切なことです。タイトル「毎日がダンス!」そのものの経験、でもあります。

 デュオ作品ですが、この2人のダンスはそのままに、その背景やあるいは隣接する風景として数組の、ムーブメントまたはモティーフを絡ませる構成にも可能性が広まるように思われました。まずは、次の挑戦としては、大舞台での上演ですが。

 規模の小さくない劇場の舞台を、いかにも劇場の舞台では無いように飾り、nfGや毎日新聞ホールのような、カジュアルで親しみやすい、難しくない雰囲気を作り出せるか。黒背景が良いのか、絵が描かれていると良いのか、何か、元気で丈夫な。

 白い空間に黒く区切られた、明るい光がふんだんに射し込む、天井の見えない、大広間のようで街路のようで、奥行きはあるが平面的な、当たり前の景色が必要ですね。いよいよ久しぶりに、照明デザインのあれこれを試したくなっております。

(2009/3/22)


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