Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》09/03/01


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.264

アヴィニョン●市立オペラ劇場

 フランスの地域都市のオペラハウス、その実態は市立劇場でしょう。
オペラハウスを建てるほどの財力がかつてあり、独自のプログラム運営を維持している劇場ということになりますから、現在のセーヌ・ナシオネール(国からも援助を受けて全国的な運営方針の影響下にある文化会館)とは雰囲気もニュアンスも全く異なります。

 アヴィニョンではオペラ(比較的小さなプロダクション)、演劇、音楽(室内楽)、バレエ、ダンス、幾つかのエンターティメント(ポップスのコンサート、お笑い系の話芸、手品など子供・家族向けのショウ)、サーカス、などがプログラムされています。キャパシティは1200程度、典型的な馬蹄形のイタリア式劇場です。

 70年代もしくは80年代に機構面の修復が入っていて、地下道で別棟の小会場(リハーサル・ホール)、搬入口のちょうど向かい(公道を挟んで)に反響板などを収めた大道具倉庫も増設、本来は傾斜舞台だったものを、電動床として水平な状態でも使用出来るようにしてあります。
とはいえ、他の殆んどのものは昔のままです。

 特に今回、注目して拝見したのは、イタリアオペラ(劇場)の、床構造がそのまま維持されている点ですね。床に幾筋も細いスリットが開けられるようにしてあり、奈落床にまでそのスリットが刻まれています。
背景画用のパネルを立てるための仕組みです。レール状になっているので襖や障子のようにスライドさせて転換します。

 もちろんどこにでも切り穴が出来るようにもなっているし、オーケストラピットもその床機構ぎりぎりまでの拡がりがある大きなものです。
それらは維持されているというより、しょうがなくてそのまま使っている風なので、確かに前述のようなプログラムには大げさなだけで不便なものなんだろうと思います。難しいですね。

 観客席最上階は一幕見、エントランスからロビーを通らずに、直接5層分の螺旋階段で上がるようになっています。またオーケストラピットすぐ横のボックスシートにはそれぞれに応接間が付き、またこの応接間は特別の螺旋階段につながり、それをたどるとプリンシパルの楽屋や劇場支配人室のあるフロアまで直接アクセスできます。

 内装は例えばシャンデリアがはずされていたり、ボウル・ルームは近代的なクロムとアクリルの調度だったり、ということなんですが、この時期、収蔵のオペラ衣裳展が開催されていて、これはまたこれで華やかなもので(しかもケースなどに収めず、そのまま飾られている)、いろんな意味で田舎っぽい、のんびりした劇場でした。

 こうした旧時代の機構を使ったオペラの上演は、この劇場の組織ではまず無理だろうし、そうした企画のための予算も持っていないと思いますが、フランス全土にある同様の地域劇場が、幾つかのプロダクションを相互に融通して巡演させる、というケースもあるようです。こんな古い劇場ならではの技術は保存して欲しいですね。

 公演中にムール貝のデリバリーがあって、照明室がその一時、南仏のトマトとチーズ、白ワインの香りに包まれたのが、今となっては良い思い出です。

(2009/3/1)


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