Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》09/02/27


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.263

忘れないうちに●アヴィニョン

 冬のフェスティバルです。初めて訪れた街ですが、聞きしに優るロマネスクで
ございました。こういう場所こそ世界遺産でなければなりませんね。ユネスコの
活動意義までもを初めて理解いたしました(さすがお膝元の文化国家、何かとき
ちんとしています)。その城壁内のムードはベネティアと似ていてアミューズメ
ントパーク的。

 コンパクトに全ての機能を集合させて且つ、要所々々に際立って目立つランド
マークがガガン!と存在し、広場があり、隠れ場所やバックヤードも収められ、
大切なことは街路が広くないところでは自分自身がこの世界の真ん中にいて、迷
子になりながらもすごく楽しい、という感触が得られる仕組みに満ちていること。
これが秘訣。

 控えめに看板が置かれ、あるいは案内板が立ち、もしくはウインドウにいろい
ろな物が並べられていて、人がこの街で暮らしている気配は維持されているもの
の、実際にはあちこちに劇場やオフィス、ホテル、飲食店が挟まっているので、
ここで働く多くの人たちは城壁の外から通ってきています。街としての生活感の
薄さの要因です。

 どの小路も曲がっていて、見通しも効かず、建物も迫っているので空しか見え
ません。そんな中に突然広場があったり、駐車場があったり、階段があって小高
い場所になったり、良くもまあここで演劇祭をやろうと思いついたもんです。最
高のアイディアですよ、だって歩いているだけで他人の気配に敏感になっていき
ますから。

 耳も目も総動員で、次の交差点の先では何が行われているか、この道をこのま
ま歩いていくと何が待ち構えているか、全身が自分を中心としたドラマの展開に
夢中になってしまうのです。ベネティアとはそこが違います。彼の地では空が広
く運河も流れ、もっと光に満ち、目は新しい刺激を求めるものの耳や身体はリラ
ックスして。

 冬の時期、というより冬の終わりの頃、アビニョン旧市街の幾つかの劇場が会
場になって行われているこのフェスティバル、規模は小さいながら由緒のある催
しと聞きました。私たち山海塾は市立オペラハウスにて第31回フェスティバル
の棹尾を飾ります。普段は演劇やオペラ、コンサートが掛かるこの会場は市役所
の隣にあります。

 旧法王庁のすぐ傍ですが、ちゃんとした石造のイタリア形式のオペラハウスな
のですけど、こぢんまりとして余り目立ちません。他会場は一般の建物の中に造
られていて、尚のこと、どこに劇場があるのか分かりにくくなっていますので、
良い具合と思います。秘密の会合に参加している気分になって、それだけで充分
楽しいです。

 日本からの観光客が多いようで、朝から団体客や学生さん連れが街を歩いてい
きます。彼らの興味は専らアヴィニョン橋にあり、もしかすると、今まさにこの
街で舞踊祭が行われている、なんてことに気づかない可能性だってあります。い
や街に過ごしているフランスの人も、もしかしたら特にフェスティバルを気にし
ていない。

 こんな自然体のフェスティバルは初めてだし、全世界が穏やかで、もう花も一
杯咲いているし、法王庁から眺め渡す城壁の外の景色も雄大で、天気が良いので
それだけでもワクワクして来るし、時差ぼけもあってハイな気分だし、困りまし
た。アヴィニョン、素敵です。夏のフェスティバルはきっと祇園祭みたいなんで
しょうね。

(2009/2/27)


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