Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》09/02/13


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.260

パリ・オペラ・コミック●磨き上げられた珠玉の小屋

 昨年来訪れることを楽しみにしていたオペラ・コミック、ようやくスケジュール等
確定して、本当に、実際に、この劇場の入り口に立つことが叶いました。現在ではガ
ルニエの陰に隠れて余り印象に残らない小さなオペラハウスですが、その歴史たるや
しっかりしたもので、19世紀ロマンティックオペラの殿堂でもあり、パリにおける
劇場文化、その、生ける証人でもあります。2005年から国立化されています。

 実に特徴的な旧時代の概容がそのまま再現保存されていて、現代的な劇場では全く
ありません。冷蔵庫マニアとしては見逃せない諸工夫がやはりあちこちに満載で、忙
しい作業の毎日も、実に楽しく過ごせました。それに何より美麗!。大理石をふんだ
んに使い、床にはモザイク、壁面にも隙間無く寓意画が描かれ、金の燭台も。

 正面玄関からすぐに2層分の階段を上がります。地上階がつまり奈落面、トイレな
どがあります。一層目の、日本で言う2階には階段しかなく、この部分が舞台側から
見ると控え室や倉庫、オーケストラ用のスペースです。そして3階の高さから客席が
積みあがっていきます。初層がオルケストラ(平土間)席。次層からがサークル席。

 平土間には板敷きの傾斜床に肘掛け椅子が並んでいます。その周囲には奥まってボ
ックス席があります。シャトレ座に比べると客席後部と舞台の距離は程近く、客席全
体の一体感が強く印象されます。特に下手と上手のサークル席はお互い真正面に向か
い合って座ることになるので、独特の社交空間が濃く演出される感じ。間口とタッパ
のプロポーションはほぼ正方形で、まるで絵に描いたようなプロセニアムシアター。

 ロビー各階には鏡がふんだんに配置され、客席扉はどこも一重で遮光遮音にさほど
気を使わずに済ませ、鷹揚で、気取った気分の横溢する、あるいは観客の特権意識が
どこまでも維持できる様な、恐れ入る程のサービス精神がそのまま造形されている。

 その剛毅さに、そして豪華さに、まず酔います。オペラ、オペラ、オペラ。ガルニ
エの宮殿感とは異なって、こちらはあくまでも劇場だけに、東京築地の歌舞伎座のよ
うな、一歩足を踏み入れたとたんに迫ってくる妖気の質が、何というかもう、ミラク
ル。この劇場にはファンがついているというのもこの気分ならでは当然でしょう。

 その気分を損なわずに済ますためか、劇場で配布される印刷物も、実にクラシック
で現代的ではありません。古めかしい銅版画風に動物を戯画化したイラストを配し、
モーブやマロンの落ち着いた配色で、若い人には暑苦しいでしょうけれど、オートク
チュール的なモードの一方に毛皮のコートがあることを忘れていなければ、正にここ
は、そうしたファッション人種がターゲットになっているに相違ありません。

 不思議とスタッフもその時代気分に感化されて、実に鷹揚に、また豪華主義に染ま
り、身振りや声までが大げさになってしまって、10年ぶりに会うオペラ・リヨンの
スタッフとも、実に自然に、楽しい現場を作ることになりました。

(2009/2/13)


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