Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》09/10/8


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.274

たかすメロディーホール●北海道鷹栖町

  旭川空港から旭川市街を大きく東に蛇行しながら迂回して、低い山を一つ越えたところに鷹栖町が位置しています。開拓地独特の真っ直ぐの道路に区画された豊かな農業地風景です。稲刈りが終わったばかり、どの田んぼも精々として、空は広く青く、白樺の木立に囲まれた「たかすメロディーホール」は、クラシック音楽の演奏会を意識した設計の多目的会館、ほぼ500席の立派な中型劇場です。

 90年代設計の比較的急勾配の客席は演奏会ばかりでなく演劇やダンスにも向き、周囲の広々とした芝生公園とも相まって、常識的な意味での非日常環境を嫌味なく実現している気がします。お行儀の良い客席観、そして舞台のたたずまいです。京都のような密集地の劇場ではややもすると周辺環境が既に商業的で非現実的ですから、こうした健康的な立地の会館を見るにつけ、劇場文化の都会地偏在を疑問に思います。

 現代ダンス活性化事業(財団法人地域創造)にて、当地でのアウトリーチ後のセレノグラフィカ舞台公演。劇場が決して非日常の時間空間体験ばかりを提供しているわけではない、むしろ日常に立脚した芸能文化を基に、上質の生活環境を提示し、日常生活の文化的充実を目指し、地域の文化生活の向上に期するべく、人間存在に不可欠の「心の栄養」享受の実践に出張してまいりました。美しく楽しく響き豊かな上演。

 美しさ、楽しさ、響きの豊かさ、どれも人それぞれの快楽基準があるものですからわたしたちの上演が押し付けになってはいけない、こうした上演作品もあるのよ、こんな舞台制作もあるのよ、ということを私たち自身が肩に力を入れすぎず、気持ち良いと思える範囲内で、現場に成就させることが何より大切な、ある意味では難しい、別面では当然の、少しだけ晴れの気分が味わえる外食のような造りを心がけました。

 客席を背景とした舞台上舞台に、穏やかな勾配の仮設客席を組んでいただき、照明的には明るく、音響的には響きを充分に生かした、技術演出となりました。京都から出掛けた私たちからすれば、町そのものが必要以上に非日常ですから、その感動を拭い去ってしまうほどに演出された舞台作品はNGです。出来ることならばごく当たり前に、私たちとお客さまが出会えるように、敷居も構えも低くして、楽しみたい。

 幸いなことに会館の担当者皆さんが思いを同じくしてくださって、大層自然体の、いまだかつて無いほど透明な上演時間をまっとうできました。これが現代ダンス?、と疑問に思われる向きもあったかとは思うのですが、これこそが、私たちが理想とする『ダンス』の現場でしょう。もとより、セレノグラフィカの舞踊言語そのものが、決してハイテクニックなモダンバレエとは一線を画するものですし。

 普通のおじさんおばさんが、普通に踊ってはる、でも少し変。ぐらいのところがセレノの面白いところですから今回などは、見事にその持ち味が発揮できたものと思います。関わってくださった皆さんに、心より御礼申し上げます。旭山動物園にも行って見ました。都会の動物園とは味わいの異なる体験でして、やはり動物達の持ち味が見事に発揮されていましたよ。

(2009/10/8)


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