Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/9/7


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.238

駆け足で廻った3箇所●メキシコからの夕鶴

 9月に入って早々の1週目、水曜日から金曜日までの3日間、兵庫県内を駆け足で巡演しました。和田山・豊岡・加古川、それぞれの市民会館が会場です。メキシコからオペラ歌手4名と児童コーラス6名が訪れて、夕鶴(オペラ、團伊玖磨)を歌うプログラム、地元の児童合唱団との共演が目玉の企画でもあり、忙しい中にも穏やかな気持ちの行きかう不思議な現場が続きました。天候にも恵まれました。

 和田山の館はワンスロープの「ジュピターホール」。勾配が急で舞台がすり鉢の底にあるようです。反響板を組んで音響的には申し分なく、明るい場内に晴れやかな歌声が満ちるようでした。今回の照明デザインは次週に予定されているオペラ本公演のアレンジですが、反響板のため実質的には数色の、前明かりだけを利用します。

 目鼻立ちがくっきりした歌手の表情にも助けられ、照明的にはまずまずの作業量で無事に仕上げにたどり着きました。ピアノ伴奏を兼任する指揮者には手元の明るさにいささかの不安を感じさせてしまったようではありますが、この点、課題です。

 ジュピターホールの名の由来が調査不足で申し訳ありませんが、シンボルの木星は庭園の流水に浮かび、夜になると光るのです。

 コウノトリがご自慢の豊岡、会館の外壁にも大きな原色レリーフでコウノトリが大空を舞っています。先年の大水で舞台までがすっかり浸かり、座席から内装まで改装には大変な時間が掛かったとのこと、古い形式の場内が明るくなっています。

 装備設備は年季の入ったものばかりですが、職員や管理の方が目を行き届かせ、使いにくいということはありませんでした。ヒロミ・ゴウのコンサートは完売とのこと、現役の市民会館としては恐らく格段に古い建物だと思いますが、順次拡張されてきた施設に無理はあっても無駄は無く、いろいろ参考になりそう。研究したいです。

 山海塾で巡演する仏米の地域館とも状況は似ていて、中央の文化政策とはまったく別の理由と感覚が舞台を中心とした劇場を支配している。何のための舞台か、どういう目的の客席か、誰が利用する会館なのか。2階席から見た場内は大きく豊かで、座って眺めている喜びが自然と沸き起こってきます。舞台から見る客席は大きくなく素朴な印象で、そのギャップが、こうした館に実に特有で独特のものなんです。

 金曜日が加古川、客席数に比して反響板内の演奏エリア容積は小さく、結果的に会場が良く響く合理的な設計。真っ白の仕上げですが、蛇腹に折りたたんだ紙を斜めに傾けたように大きめの山谷が舞台に倒れこんでくるデザインになっていて、ちょっと不安定なビジュアルに思えました。斬新な感じはありますけど、それはその当時ある種の流行だったのかも知れません。ただその白と山谷に助けられて、照明の効果は非常に大きく、良い仕事をした気になれました。ありがたいものです。

 加古川は兵庫県も姫路側、とても温暖で空の広い町です。夜に会場を訪れるより昼の日差しを浴びて来て、白の建物に入場するのがふさわしい造りだと思いました。そのほうが晴れがましい気分になりますもの。鬱蒼としたビル街の劇場ならば夜の華やかなシャンデリアにも味わいようがありますが、広々とした自然の中に暮らす人間が窮屈で簡単な人工空間に閉じ込められに来るには、何か理由が必要ですよね。

(2008/9/7)


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