Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/9/17


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.239

小山そして千葉●夕鶴ツアーは続く

 栃木県、普段は通過してしまうことの多い土地ですが、実際に駅に降り立ってみる
とまだまだ山は遠く、空も広く、関東平野の中心に来た感がします。図書館・公民館
・小ホール大ホールを比較的低層の建物ひとつでコンパクトにまとめ、隣の市役所と
併せて市の行政文化機能が一箇所へ集約された都市計画、というところです。

 建物はシックな茶色のレンガタイル、各施設共通の中央玄関は白く清潔に仕上がっ
ています。要所に階段がデザインされていて、まだまだ日本が若々しく豊かになりつ
つあった70年代、バリアフリー概念は遠く、しかし空間の使い方はつましく緻密で
礼節を失わない。ホール・会館機能の要件が丁寧に整理され、表現されています。

 大ホールロビーは400キャパなりの、こじんまりとした居間のような内装になっ
ています。暗褐色のウッドパネルで構造柱を覆い、幾つかの椅子を並べ、グローブ型
のシャンデリアが吹き抜けに吊り下がり、もちろん決して広くは無いのですが写真う
つりは良さそう。会議室前室とかホテルのエレベータホールとかを連想しました。

 そして大ホール。一転して基調色には白が用いられています。椅子は穏やかな朱色。
準備された材料と用意できた空間容積を最大限効果的に利用して、見事な開放感を演
出しています。笠間焼きかどうか、プロセニアムに続く大臣は陶壁仕上げ、落ち着い
た色味・質感が場所の性格を冷静にしていて、ここまでの流れは本当にお見事。

 客席観は横に広い印象で2階席からの直線距離は遠くないのに決して親密な感じで
はありません。客席から舞台を眺めても適度な遠さがあって、講演会向けかも知れま
せん。反響板を組んだコンサート用の飾りでも、親しみやすさよりお行儀のよさが優
先され、ここはそれなりの地域文化会館の節度が実現されていると解釈しましょう。

 千葉県文化会館は60年代のコンクリート造独特の空間感覚が見ものです。余り有
名な建物ではないものの、同時期の神奈川県立音楽堂、東京文化会館等のスタディが
良く生かされていて、奇跡的な大空間が今に伝えられています。知らなかったので勉
強しますが1967年の竣工、確かに楽屋周りには古い設備が今もそのままです。

 この時期の会館建築は何よりロビーの壮麗さに目を奪われることが多く、この館も
その通りです。無柱大空間が非日常の表現に直結した雰囲気、ですから場内も驚くほ
ど天井が高く、また2階席3階席が遠く、舞台が小さくまとまってしまっているよう
になりがちですし、パワフルな表現を受け取めるには、何かが不足します。

 ただ、自分の経験にいくつかある欧米のオペラハウスにも同様の感覚が満ちた館は
いくつもあり、オペラの上演には悪くない会館と言える気もします。プロダクション
としてはここと、あと2館で「夕鶴」をフル上演しますので良い経験になりました。
1千5百人を超える聴衆に、人間一人が歌う音楽を届ける仕事がオペラなんですね。

 舞台美術も衣裳・メイクも、その歌い手が極力大きく見えるように、美しく存在す
るように、あらゆる手段を講じて準備を進めます。リヨンやパリでは外国語環境でし
たから余りピンと来ていなかったわけで、今回は遅まきながら照明でもこのオペラと
やら、音楽の祭典を形にする真実を味わっているところです。

(2008/9/17)


岩村原太の「万国文化中心報告」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室