Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/8/16


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.236

ダンス白州2008●上村なおかソロ

 8月14日の午前6時半、すでに太陽は昇り、山間に穏やかに連なる階段状の幾枚もの水田は山影なく光にさらされています。農道との境のがけの様な畦を舞台にして上村なおかのソロが始まります。今回は照明機材無し、雨天の場合は何も無しのつもりで色原反を持ち込みました。光を色に見立てての、新しい作業になります。

 地面に色材を広げると、反射した色光が周囲を照らします。それだけの原理を頼りに「レモンイエロー」「アジサイブルー」「ボルドー」の3色を選びました。始まりの色として黄色、偶然に光の色でもあります。空色と紫色はそれぞれ自然の色ですが、紫色には終わりの色の役目もあります。晴れて何よりでした。山も綺麗でした。

 もう長年継続しているこのフェスティバルについては、何も補足する必要はないでしょう。ただ、年々と舞台建築の数が増えているとのことで、今年お伺いした折には芸能舞台・森の舞台・土の舞台、他、なんとも豪放で開放的な建物が一杯あって幸せになりました。全て木造・壁無しですから楽しいです。利賀の逆と言うか。

 冬の間の管理を心配するものの、夏場の期間中、お客さんも自由に周囲を散策されていて、演劇とダンスの違いやら、山梨と富山の県産物やら、ワインと日本酒であったり、畑と森とか、田と川とか、いわゆる劇場形式に固執しない精神が溢れていて、つまらん舞台人になる前に一度はこんな場を体験するべきと、少し、思いました。

 都内からですと、中央線で各駅停車利用なら5〜6時間ほど。関西からの公共交通利用のアクセスは悪く、自家用車中央道経由で5〜6時間ほど。プログラムは必ずしもバラエティに富むわけではないですが、真摯に場と身体に向き合う質の上演が約束されているように思います。観客も同様に場と、身体に向き合わねばなりません。

 比較的早朝からのパフォーマンスだったにもかかわらず、黄色い布を道路に敷き終わる頃には黒山の人だかりが出来ていました。日を背にして山側の一段高い田の畦から登場した踊り手が、道を横切り、山裾へ向かう次々へと低い田をたどって行くまでの1時間。刻々と強く射しつける朝陽にあぶられて、色布の効果は思い通り。

 黄色に映えて白い衣裳は緑の草に浮かぶように見え、空色となじんで空を背景に立てば衣裳を着た人物は透き通って見え、紫の土色は闇を感じさせるものの大地の手ごたえは残し人物の存在感は失わず、それぞれの光の帯がからむと突然にアスファルトの道路に横たわる布の姿に戻り、踊り手は人間になり。観客も等身大に見えて。

 始めは色布を使った本仕立てのようなものを作ろうかと構想して行き着いたアイディアでしたが、ただの原反という素材感が場に上手くマッチした結果となりました。繊細な操作を重ねて素材の質を変えて、今までに見たことの無い世界観を構築する方法のごく手前には、ただの素材をむき出しにごろりと転がすやり方もある。

 もちろん、それは、パフォーマンスの当事者としてその場に立ち会う誰彼もが、その素材を咀嚼できる場合に限って失敗しないのだとは思います。成功するとは限りませんし。今回は白州ダンスフェスティバル20年の積み重ねに助けられました。静かで美しい朝を過ごすことが叶い、本当に良かったです。

(2008/8/16)


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