Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/6/23


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.231

いずみホール●トランスミュージック

 トランスミュージック、対話する作曲家、とのシリーズ。2006年年末からの足掛け1年
半、結構な大プロジェクトとなりました。テーマ作曲家は望月京さん。これまでの受賞歴も華
やかで、現在最も将来を嘱望される日本人作曲家のお一人です。その彼女の、エテリック・ブ
ルー3部作に照明を付ける仕事です。

 照明を付ける、というのはどういうのか、新作能や復活狂言の節付けや手付けのような、付
加価値を増すための仕事のような。今に至るまで結論は出せていません。

 紗幕で舞台三方を囲い、木質内装を見せないように企み、紗幕にパターンを時折投影するこ
とで光の透明感を表明し、空間のサイズは照明量の変化で扱い、深いブルーを含め色表現は最
小限にとどめ、穏やかな光景をつづり合わせて45分を創る。

 音と光の不可視性がずーっと気に掛かっていて、デザインでも明かり作りでも音と光の共通
点・差異点を探る作業になっていたかもしれません。光の有る状態・無い状態、もしくは音の
有る状況・無い状況を、虚心に、もしくはじっくりと思い浮かべることは難しく、音楽と照明
の関わりは、今後しばらくの間、個人のテーマとなりそうな予感がします。戦略的なデザイン、
そして戦術的なシークエンスを描きたいです。

 演奏家という表現者の計り知れない奥行きも、今回改めて学んだ出来事でした。一個の人間
である上に、全体の音楽には部分的にしか関与せず、にもかかわらず総体としての演奏会は彼
らの頭上に輝く。音楽という表現物の構造が特別だからなのか。

 いずみホールはオフィスビルの低層部分に、木質パネル内装のシューボックス・室内楽ホー
ルをはめ込んだ造り。パイプオルガンを有し、またモデルになったウィーン楽友協会ホールと
は異なるきついめの客席勾配が付けられています。ホワイエとロビーは現代的で明るく広く、
大阪城を望み、とても美しい仕上がりです。

 大阪京橋から歩いて10分ほど、大阪城ホール、シアターブラバ、などの有名な大会場も近
在にあり、そうしたカジュアルな遊興文化施設とは一線を画した、クラシック音楽の殿堂を志
した設計なのかも知れません。どことは無く日生劇場を彷彿とします。小劇場やダンスプログ
ラムの多い劇場を渡り歩いていると、こうしたフォーマルな上演芸術があることや舞台作品が
生産されていることを忘れてしまいますね。

 果たしてこのトランスミュージックの会、照明を伴った21世紀室内楽の上演が、そのよう
なフォーマルを意識して成果を得たものかどうか、なかなか判断には難しいものがあります。
今一度チャンスがあれば、紗幕の裏側に演奏家を配置して、照明の効果もさることながら、演
奏家の動きを見えなくした状態での音楽だけの響きを、きちんと創ったコンサートを実現した
いと思いました。時々演奏家は透かし見えて。

 望月さんのこの作品には、微かな音を幾重にも重ねて厚みを聴かせる仕掛けが施されていて、
その音響的な仕掛けをどのようにか、照明の仕掛けに(視覚的に)反映できれば良かったのに、
という後悔が、今でも少し残っています。ご協力いただいた多くの方、ご来場いただいた皆さ
ま、ありがとうございました。

(2008/6/23)


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