Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/5/8


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.230

初夏から夏へ●パリ

 ジェラール・ヴィオレット氏のディレクションがいよいよこの夏で終了します。プログラム
は翌シーズン一杯継続しますが、その後は新しいディレクターのプログラムで、実質的な再出
発とのこと。パリ市立劇場、山海塾公演、5月を迎えました。

 新作と旧作、どちらもほぼ完売というありがたい状況です。今回は全く純粋なデザイナーと
してのプロダクション参加、そうなると客席の反応が大いに気になります。観光シーズンでも
あり、バカンスシーズンでもあり、12月の頃より落ち着かない客席の雰囲気は、この作品の
出来を見定めるには、なかなか賑やかです。

 劇場の屋根裏にある稽古場に4月22日に入り、28日の仕込開始までに図面を整え、5月
4日の公開リハーサルまでの数日間に作品をまとめる、というペースは恵まれていて、ゆっく
りとコンセプトを温め、じっくりとデザインを磨き上げていくプロセスは、日本の劇場でも最
近少しづつ実現できるようになって来ました。

 その代わり、短い上演時間の中で、我々が企んだことが十全に観客に伝わっているのかどう
かの判断は、少し難しいというのが正直な感想です。新作ですので作品内容のインフォメーシ
ョンは全く観客には与えられておらず(それなのに!何とタイトルさえも無いままチケットが
飛ぶように売れていく)、観客は入場後のごくわずかの時間に当日配布される印刷物で心構え
をして、鑑賞に臨むのです。

 公開リハーサル、初日は、殆んどが熱心な応援者とご招待のお客様ですから、一応の山海塾
の雰囲気は了解済み。それでも、素晴らしく晴れ上がった暑いほどの夕方、夜8時半でもまだ
陽が残り、そして客席には熱気がこもり、いつもの年の瀬の山海塾とは明らかに違って場内の
ムードが若々しく、極めてぼんやりと集中して、目に見えるもの耳に聞こえてくるものを穏や
かに、享受して、解釈しない感じ。

 観終わって、立ち上がりながら、印象に残ったシーンを反芻して、舞台装置を振り返りなが
ら、余り作品の内容に触れる会話は交わさずに、三々五々青い夜のパリの街に散っていく。1
2月では寒い客席が漸次暖まってきて、終演時には熱狂的なムードが劇場を覆う感じがしてい
たもので、このあたり、夏公演の醍醐味でしょうか。

 冬か夏かで作品の創り分けはしないものの、少なくとも上演に携わるメンバーには、肩の力
を抜いて客席のリラックスした空気を急がずに、混ぜ合わせ、そっと送り出す工夫が要ると、
伝えければならないと思いました。もちろん、特に、照明は。

 照明の力加減は絶妙な押し引きと上げ下げに感じられるものなので、精妙に、繊細に、デザ
インする方法もあったなぁと考えているところです。今回の照明は、ほぼ全ての表現をオペレ
ータの腕にゆだねているので、そのオペレータのコンディションが作品の仕上がりに、如実に
反映しているはずです。旧作品では岩村のコンディションが作品の出来不出来を決めていたの
かと思うと、今更ながらゾッとしたりして。

 照明オペレータもダンサーも、若いうちは怖いもの知らずでフレッシュで、身体能力も衰え
ていないわけですから、それこそが才能なんだと思います。自分をある時期、自分自身への気
づきも含めて、育ててくれたパリという街、そしてパリ市立劇場に、心から感謝をしています。

(2008/5/8)


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