Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/3/21


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.228

アサヒアートスクエア●3度目のAAS

浅草名物・金色のオブジェを積んだ黒いビルの4階に、楕円形のホールがあります。出来たばかり
のこのホールに入ったのは岩下徹さんの即興公演のときだったと思います。贅沢に素材を使い、デ
ィテールを大切にした造りは全くバブル頃の空間作法そのままで、今では少し陳腐に感じる設備設
計も、当時は実に大胆なものでした。

気がつけば、物心付いた時にはこの建物が既にあった、もちろんファクスもワープロも過去の新鋭
機器で、携帯電話とパソコンから自分たちの電脳体験がスタートしている、という世代と共に照明
作業をすすめるようなことになっております。

エスペランサ靴学院35周年を祝う展示会の照明デザインに「お呼ばれ」です。企画コンセプトは
実に明快でしたので、大して迷うことなく仕事の方針は固まりましたが、自慢できないほどシンプ
ルな仕込みのはずなのに、思いのほか作業は難航。原因は(スパイラルも原宿クエストも、ラフォ
ーレも同じで)スタッフワークのためのスペースが極端に狭い、あるいは小さい、バブル期ならで
はの現象です。

振りかえって考えれば、あの時期の劇場あるいは空間演出は、コステュームや舞台装置の、見た目
の華やかさを支えにしていたのでしょう。音響演出にしても基本的にはボリュウム操作だけが問題
にされていたのか、今から思えば貧しく不自由な時代だったことになりますね。光が当たればOK、
音が聞こえればOKということ。

もう20年も前のことですから貧しさを感じるのも当然なのですが、現時点ではその貧しさを観覧
者に気取られないための特別な気遣いが必要です。当時別にどうでも良かったことだけど、今とな
っては嫌な感じのする箇所は「見せない」工夫が要る。

展示企画のデザイナー達からは端的に、壁を見えなくするように注文されました。フロアと壁高の
プロポーションは悪くないと思うのですが、部屋の長辺と短辺の関わり方が微妙にゴージャスな風
合いを醸し出していて、しかも天井に向かって広がっているおかげで視線が落ち着きません(常に
足元からラセン状に目が登ります)。

あの頃のリアルな浮遊感を知らないわけではなく、またそれも懐かしくて了解できる、とはいえ、
どこか馴染み深く、しっとりし過ぎた印象が強い。湿感をもっと減らして、幾分か空間の奥行きも
強調し、展示品のストーリーを読み解くゆとりを観覧者に味わってもらえるようにしたいとの意図。
床を黒パンチで覆うプランが先行したおかげで、余計な乱反射を抑え、展示物主体に見易く作るこ
とが可能となりました。

一方、同時展覧されている別会場の空間デザインは白基調、スクエアな清潔感を全面に押し出した
もの。古い銀行の建物をリノベーションした製靴の専門学校々舎に一杯の蛍光灯の光を満ち溢れさ
せ、卒業生らの作品のビビッドな色合いや、本展示会のビジュアルの淡彩が、実に魅力的に、透き
通ってレイアウトされています。

空間だけの比較で言うと、やつれ気取りの黒服中年と春物ドレスを身にまとった淑女ほどの差がっ
っって感じでしょうか。校舎展示の美しさは記念ブックレットにも見事に再現されています、全て
平野愛さん皆さんのお仕事です。

(2008/3/21)


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