Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/3/18


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.227

KAVC●アンサンブルゾネ「鷹の声」

今回のゾネの舞台は、初めて仮設を全て撤去し、本来のタッパに戻して使いました。そうすると高さと
間口の関係がほぼ正方形のプロポーションとなり、奥行きもほぼ間口と同じ数字が出せ、きわめて現代
的な劇場印象に一変して、驚きました。

年を追うごとに新開地のボート場外券売り場は人を集め、ラーメン屋さんや串かつ屋さん、定食屋さん
も華やかな看板を並べます。埃っぽい感じは無くならない代わりに、ピンクや白い色文字のラブホテル
案内が目につきます。色っぽいです。

アートヴィレッジセンターは、震災直後の緊張感を漂わせたガラス建築風情がすっかり流れ落ち、街に
溶け込んでいます。ここが芸術を扱う施設とは思われないほどに静かで、ドアを越えて1階のホールに
入って来ないと何も目につきません。

ただ、さすがに往年の繁華街、映画のポスターばかりは歩く人の足を止めるようで、この時期上演され
ていた三国連太郎主演の大陸を題材にした映画には、お客さんも多く入っていたようです。昨年までと
はすっかり雰囲気の違うKAVCでした。

2階は従来のロフト感覚あふれるホワイエで、これまでとは逆に、きわめて「非」日常的な空気感が場
を支配します。新開地駅からの一連の環境の連鎖は振れ幅が余りに大きく、先ずここでどぎまぎします。
すでに自分の居る空間の足元が危うい。

人の生活する情緒が無いからなのか、劇場に働く人の痕跡が見当たらないからなのか、清潔すぎるのと
放置されているのと両方のやり場のない感じが、照明の無闇に色温度が低い具合と合わさって、近未来
の廃墟にたたずんで居る様な危うさ。

この情景は今回の作品上演に少なからず影響を与えているはずです。舞台で使われる照明は蛍光灯とメ
タルハライド灯ですから、冷たくシャープな光に客席まで覆われます。ホワイエの廃墟感覚が上演空間
に連続するわけで、落ち着きませんね。

落ち着かないのは上演自体もそういうことなので、お客さまがよっぽど自覚的に落ち着いてしっかり見
届けようと思わなければ、何も引っかかることが無くなってしまう。いろいろな意味で迷路に惑い込ん
で、街の印象に作品が流れて行きます。

これまでこれほどには街のたたずまいの作品への影響を考えたことは無かったのですが、仮説的には分
かっていたことではありました。例えば、それだけ透明度の高い演出なんだろうと思います。作品から
その劇場を透かして街が見える。

もしかすると喜劇というのも、そういう枠組みの作品なのではないかという気がします。猥雑な街、風
通しの良い劇場の建ち方、日常的ではないホワイエの有様、そのホワイエの違和感がそのまま連続する
上演空間。迷路のように落ち着かない演出。

開館から12年の経過が、鮮やかな道程を描くのはKAVCばかりとは限りません。当然劇場も育って
いくわけで、その育ち方が激しく予想を違えた、というのが今回の実感ではあります。劇場の思春期を
目撃しています。

(2008/3/18)


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