Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/2/14


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.226

ライス国務長官の●ケネディセンター始まって以来の大フェスティバル

 「JAPAN!」で滞在中のケネディセンター、この数日間まるでどこの国にいるのか分からない時間の流れを体験しています。アメリカのようでそうではない、ヨーロッパでも日本でもない、間違いなくこここそはワシントンDCという空気が漂っています。聞くところによれば、このフェスティバル、ライス国務長官主導の企画=つまりホワイトハウス内外政策の一環として実施されたものだそうです。

 2年の準備期間が必要だったとのこと、NYでもロスでもない、アメリカ行政府の保守土壌を背景に持つ国立劇場の企画として、最新の日本文化を是非ワシントンに運びたかった、日本という国の存在感をこの街の住人に直接に触れさせたかった、ということになりますでしょうか。具体的・正確には言語化できないものの、特殊に革新的過ぎない伝統古典ベースの現代的舞台芸術が選択されているのは確かなことです。

 そんな建物の外での諸事情があってか、オペラハウスでの私たちの作業には現場の抵抗はまず無く、ユニオンも協力的でやりたいように仕事をさせてくれました。舞台裏にはお約束通り、使い終わったミュージカルやバレエの道具が所狭しと飾り付けてあり、丁度同じ時期に建ったオタワの国立劇場と雰囲気や設備も似ています。

 スライディングや迫り機構はありませんが、ほぼ4面舞台の構成になっています。綱元は下手2階ギャラリーでのダブルパーチェス、遮音シャッターが3面に降ります。オーケストラピットももちろんフルサイズ対応していて、基本に忠実な造り。

 客席観はアメリカ式のスタジアムとヨーロッパ式馬蹄形の折衷。宝石箱かボンボン容器内張りの様に、赤ビロウドの壁装でシンプルに覆われています。天井にはデコ期の髪飾り(ティファニー製)を髣髴とさせるシャープでゴージャスなシャンデリアが柔らかく輝きます。ドレスサークルはボックスシートになっていて、これがまた、それだけでワンフロアを独占する貴賓室群でもあります。うーむ、むむむ。

 中央のボックス席とその両側は「プレジデンシャル・スイート」として、応接室つきの特別エリア。現職大統領と側近の写真が掲げられ、この街とこの劇場が必要とする栄光の、その象徴とも言うべき楕円形の部屋になっています。ちなみにこの複合劇場施設の運営評議会、そのトップは歴代の第一夫人が務めるしきたりだそうで。

 応接室から出れば真っ直ぐに、ホワイエの、ケネディ元大統領のブロンズ像があり、スペインかどこか王国の公立劇場もこんな感じでしたかね。政治がもたらす豪華で自在な世界観を全く疑わずに構築された空間が、きわめて巧みに表現されている。建設当時に把握されたヒエラルキーが、現在も新鮮さを失わず有効なことに驚きます。

 そう思ってしまうと何もかも皮肉に眺めたくなりますが、そんな庶民的な皮肉視線を上滑りさせるだけの内実はきちんと備えているので、ご心配には及びません。

 建物屋上からはぐるりとワシントンDCが見渡せます。ここは明らかに、世界の中心でありました。

(2008/2/14)


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